松山・道後温泉に行こう①プロローグ~松山城編
「親譲の無鉄砲で小供の時から損ばかりしている。」
ご存知、夏目漱石『坊ちゃん』の冒頭。
「――料理屋も温泉宿も、公園もある上に遊廓がある。おれのはいった団子屋は遊廓の入口にあって、大変うまいという評判だから、温泉に行った帰りがけにちょっと食ってみた。」
坊ちゃんは、数学の教師として松山に赴任して早々、松山市から汽車で十分ばかりの温泉のある町に行き、その温泉に入った帰り、温泉地の遊廓の入り口にあって、大変うまいという評判の団子屋で一服した。一夜明け学校に出勤し、一時間目の教室に行くと、「団子二皿七銭」と書いてある。二時間目の教室いくと、やはり教室に「遊廓の団子旨い旨い」と書いてある。
『坊ちゃん』を初めて読んだ中学生の時、松山の人はなんて意地悪いんだ、田舎町特有の余所者を馬鹿にする風土なのか、と思った。高校生でもう一度読んだ時、漱石は松山を馬鹿にしすぎじゃないか、と思い直した。
流れで教師になって松山に赴任した青臭いお坊ちゃんが、「なんだこのド田舎は、どんくさいやつらばかり、やっぱり東京がいい、温泉しかないじゃないか、飯もまずいし、なまり丸出しのくそガキども、同僚もバカばっかり、ああ、婆やに会いたいなあ」と毎日愚痴ばっかり言って短い日々を過ごす話。身も蓋もないけれど。確かに松山は田舎かもしれないけど、松山の人間なんてロクなもんはいないとハナから決めつけている坊ちゃんにも問題はある。そんな心持ちでは、松山を発ったって次の土地でもうまく行くわけなかろう・・・そんな感想を持った。
で、私もちょっとは大人になって、松山に初めて足を踏み入れる機会を得た。道後オンセナートを見るという半分以上個人的趣味の出張である。前日まで別府で仕事をしていたので、夜も明けぬ早朝に別府港を発ち宇和島運輸フェリーで八幡浜港へ。
八幡浜から松山まではローカル線で。松山は1泊のみなので、早起きして滞在時間を延ばす作戦。松山駅から市電で道後温泉駅に行き、宿に荷物を預ける。「日本ボロ宿紀行」を参考に、夏目旅館さんに。どうせ温泉は外で入るし、夜寝るだけなのでドヤで十分むしろドヤ希望という贅沢甲斐のない女である。
さて、ご挨拶がてら松山城へ。お城萌えはないけれど、石垣萌えなので一度は見ておきたい。友人から行くべしとお触れもあったので。
松山城は、日本で12か所しか残っていない「現存12天守」のうちのひとつ、江戸時代以前に建造された天守を有する城郭。こんな山の上に、これだけ立派なお城を築いたのか、築城過程で何人の人が死んだんだろうと恐ろしくなる。
桜の開花前だからか、観光客はまばら。週末だから多い方なのかもしれないが。使ったお金はロープウェイとお城の入城料のみ。甲冑体験は無料だし、ほしいお土産は食べたいものもなく。もうちょっと、お金を落とす仕組み、必要なのでは。
お城の良し悪しは分からないけれど、石垣は熊本城に並び立つ良さだった。熊本城が剛健な男らしさだとしたら、松山城はきめ細やかで麗しい女らしさがあった。満足して下山して、街中へ。
地図も見ずに大街道商店街を散策。こういう大通りには間違いなく裏道に歓楽街が寄り添っている。嗅覚を便りにフラフラ。
今夜の行き先が決まったところで道後温泉に戻る。道後オンセナートを見るミッションがあるからね。長くなってきたので続きます。