上海に行こう②上海ビエンナーレと上海蟹編
おはよう上海。
ホテルは朝食付きにしなかったので、街中で小吃をいただいた。大抵の路面店は安くてあたたかくてうまいものが食べられる。タピオカミルクティーをはじめとしたテイクアウトドリンク屋も充実しているので、どこでも甘い汁が啜れる。
さて、初めての土地に着いて最初にすべきことは、その地域の博物館に行くことだ。両親から受けた教育(洗脳)のひとつだが、これに関してはその通りだと思う。
というわけで上海博物館だ。北京の故宮博物館、南京博物館とともに中国三大博物館のひとつに数えられる。ここにジャスト開館時間に行くために、目の前のホテルにしたと言っても過言ではない。総延べ床面積39,600㎡。1996年に移転新設された。
入館料は無料。さすがです。簡単なセキュリティチェックを受けて入館する。
せっかくの朝イチ上海博物館だ、空いているうちに行くべき展示室と言えば「中国古代青銅館」をおいてほかにない。
ゆたかな空間を贅沢に使った展示空間で、壁面と島ケースで1点1点を見せつけられる。他の展示室も行って気が付いたが、パネルやケースは展示室ごとのオリジナルらしく、やたらと手がかかっていた。ぴかぴかのガラスケース、埃ひとつないグラフィック(中英併記)、的確で明るい照明、ほどよく静かで活気ある館内・・・気持ちのいい博物館だ。あと床がカーペットなので歩き疲れないのはいいな。掃除やメンテが大変だろうけれど。トイレも美しく磨き上げられていた。上海はどの公共施設もトイレがきれいなのが好ましい。
2時間ほどで離脱。名残惜しいが、本命の上海ビエンナーレ開催中の上海当代芸術博物館へ向かう。
上海ビエンナーレのレポートは、鷲田めるろさんがアートスケープで鋭い分析を発表しているが、正直なところ、無難なところに落ち着いていたように感じた。もっと政治性や土地性を強く前面に出すのかと思っていたが、センセーショナルな表現はほとんど見られなかった。政府の検閲もあるのかもしれないが。
ビエンナーレのテーマは「Proregress(行きつ戻りつ)」。どこぞの国のかつての万博のテーマのように、進歩=前に進むことのみを命題に上げるよりもよほど成熟した思慮を感じられるテーマだ。行ったり来たりの試行錯誤の過程も表現である、と寛容されているようで息苦しくない。
ただし残念ながら鑑賞中にそのテーマを思い出すことは少なく、空間のばかでかさと使い方に圧倒され、こういう空間が日本であまり観られない現状にすこし悲しくなった。
陸揚の作品は、熊本市現代美術館の「魔都の鼓動 上海現代アートシーンのダイナミズム展」で印象的だったので再会がうれしかった。気合いの入ったインスタレーションもよし。ただ熊本では映像作品が歌入りだったのに、上海では流れていなかったのはたまたまなのか。日本の90~00年代アニメへの愛と皮肉にあふれた快作(怪作)で、フリークス的な奇妙な進化を遂げた世界観が妙になつかしい。あとキャラクターの造形がことごとくダサいのがいい。
ひとつ気になったのは、キャプションに解説がほとんどないこと。見逃したのかもしれないが、解説らしきものがないので、作家のプロフィールや作品の説明を読まないまま鑑賞することとなった。純粋なアート鑑賞ができて何よりとも言えるが、自由な解釈を委ねられすぎて取り付く島のない作品も多かった。国際展の作品鑑賞レベルが足りません・・・。
ここでも2時間弱鑑賞し、美術館慣れしていないためへとへとの友人を無理やりタクシーに押し込めて次の目的地へ。2017年5月にオープンした、万博をテーマにした博物館・世博会博物館だ。いちおう博覧会研究に携わっていたため行かないわけにはいかない。
各万博はシンボルタワーを配した丸い形状の島展示でダイジェスト紹介。万博の映像も流れていて、当時の風景が見られる(しかし見にくい)。
大阪万博の展示は、ちゃんとエキスポ・タワーがシンボルタワー扱いされていた。ここで太陽の塔出てきたらどうしようかと思った。なんだか最近太陽の塔推しムード強くないですか?いち広場の造形物にすぎなかったのに大した出世だ。いや太陽の塔は内部見学に行くくらいには好きなんですけれど、どうしても「反万博」的象徴に思えてならないのですよね。決して万博そのもの(公権力)のシンボルではないはず。大阪万博の2つのタワーについての論考はこちら。
なんで上海に、世界の万博を紹介する博物館ができたんだろう。アジアで万博開催するようになったのなんて1970年大阪万博が初めてだし、どっちかというと万博で見世物される側だったじゃないですか。だから万博博物館をつくるとしたらロンドンか、せめてパリが妥当だったんじゃないのと思いながら、このとてつもなく巨大で、莫大な建設費がかかったでろう(そのわりに内容は薄い)施設を歩いていると、欧州諸国はこんな社会的意義の見えづらい施設をつくりたがらないだろうなとも思った。私は社会装置としての万博に関心があるくちなので、この空虚な博物館のあり方も含めて悪趣味に楽しめるけれど、そうでない大多数の人々にとってはどうなんだろう。というか、この博物館は何を目的として誰をターゲットとした施設なんだろう・・。
無駄に多いスタッフに見送られながら博物館を後にして、街中に帰る。めしにしましょう。
旅行先の懸案事項は夕食の店選びだ。人よりも少し食いしん坊な私にとって、衣食住のヒエラルキーは「食>>>>>>>>>住>衣」だ。うまいものが食べられるなら、およそ妙齢女子が住みそうにない雑居ビルに住み、襤褸切れを着て過ごしてもいい(まさに今のくらしだ)。
というわけで、今回の上海トリップの予算も、美術館まわりと交通以外はほとんど食に充てるつもりで臨んだ。ホテルの予算を抑えたのもそのためで、美食に全力投球するといってもいい。
で、サタデーナイトの夕食は慎重になる。シーズンじゃないけれどやっぱり蟹は食べたいよねという結論にいたり、選んだのは「成隆行蟹王府」だ。オープンの17時ちょっと前に行ったら予約していなくても入れてくれた。週末18時以降は満席になることが多いので早めに行くが吉。
一度でも上海に行ったことのある人なら知っているかもしれないくらいの有名店だ。見ていないが、たいていのガイドマップにも紹介されているらしい。1年を通して上海蟹を提供するために、1,800万㎡もの上海蟹の養殖場をつくってしまったクレイジーなレストランだ。小金持ちの日本人がよく訪れるため、メニューには日本語表記もあるので海外初心者も安心。コース料理は1万円~なので、高級店と言っても手の届く範囲なんおがうれしい。
コースでもよかったが今回はアラカルトにした。だって蟹ばっかり食べたいんだもん。店員に食い気味に「上海蟹!!!」と聞いたら笑われながら用意してくれた。
さ、蟹が蒸されるのを待ちながら他の蟹料理を食べながら紹興酒を舐めようではありませんか。
上海蟹の老酒漬け(別名「酔っぱらい蟹」)は、上海蟹を生きたまま老酒(熟成させた紹興酒)に漬けたシンプルに残酷な料理だが、これがまた酒泥棒なんだ。老酒でビショビショの上海蟹の足をむしり、チュルリと身を吸い込めば、甘く芳醇な老酒の風味と蟹の深い味わいが口いっぱいに広がる。より野趣味ある蟹みそをチョンと箸の先に付け、舌先でペロリと舐めて、海の恵みと命に感謝する。そこであたたかくした紹興酒をクイっと飲めば、気分はまるで王様。そう、ここは蟹王府・・。
蟹みその塩漬け、これがまた。蟹の旨みが凝縮された素晴らしい料理だ。豊かな日本で似たようなものはないものか。酒盗のたぐいに目のない私にとってはこれ以上ない珍味。冷凍したものを輸入したいけど検疫に引っかかるだろうな。
蟹の煮凝り、蟹型がかわいらしい。蟹の身とエキスがギュっと詰まっていて、たいへんに贅沢な煮凝り。腹いっぱい食べたい。
次の紹興酒のボトルを頼んだところで、食べやすく並べられた上海蟹の足を一口。うむ、うまい。身を食べるならズワイガニのほうが食い出があるけど、チマチマと足をしゃぶるのは嫌いではない。さて肝心の蟹みそは・・・鼻を抜ける華やかな香りと、ネットリとした味わい。あぁこれは食べたことのない蟹だ。高貴な味がする。酒が進む蟹です。
オールド上海の情緒あふれる店内で、楊琴と琵琶の生演奏もはじまった(なぜか一曲目はテレサ・テンの「つぐない」だった)。うまい酒とごはん、心地いい音色、キビキビと動くサービスのいい店員さんたち・・いい店。金額も1人1万円で十分豪遊できるので、むしろコスパはいいほうだろう。
シメに麺を食べて、店を後にしたのでした。
しかし今夜はサタデーサイト。夜間経済(ナイトタイトエコノミー)のリサーチもいたしましょう、ということで向かうは外灘(バンド地区)。友人がルーフトップバーに行きたいというので、私にしては珍しく、高いところから夜景を見ながら酒を飲んだ。
オリジナルカクテル「外灘的秘密(Bund Secret)」がジンベースのココナッツカクテルでうまかった。
じゅうぶん飲んだのであとはホテルで飲りましょう。てくてく歩いて帰った。