盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

池袋ミカド劇場10結~南美光さん引退興行ラストステージに行く

10月31日、快晴。

池袋ミカド劇場10月結千秋楽、南美光さんの引退興行・ラストステージの日が来ました。場内は朝から多くの方が集まっていました。私も夕方から場内入り。あんなにお客さんでいっぱいの劇場に行ったのはいつ以来だろう、というくらいの盛況ぶり。もちろん全員マスクをつけていましたが、マスク越しでも常連さんは不思議とはっきり認識できます。みんな口々に「久しぶりだね」「今日来られてよかった」と笑顔で言い合っていました。

南美光さんは、楽日は「甘い花」「パピヨン」「春よ来い」「11周年作」の4個出し。進行が押しているため、他の4名のステージは2曲カットでした。ポラも急ぎ目に応対し、できるだけ南美光さんのための時間を作ろうと画策。栗鳥巣さんは「私はあと20年ストリッパー続けるから、ポラはまた次に会った時でいいから!」と言って、テキパキこなしていました。お客さんたちも時間を配慮しながら楽しんでいました。こういう、全員が協力してひとつのステージを作り上げていく感じこそ、生の舞台の良さで醍醐味だと思う。

Twitterなどで色々な方が感想を呟いておられるように、南美さんのラストステージは、彼女の11年の集大成としてふさわしいものだと感じました。引退前の連投や連日のお疲れもあり、体調は万全ではなかったそうですが、いつものように全力投球のステージを披露する姿勢はさすがプロフェッショナルです。乱筆ながら、私も感想を綴らせてください。

彼女の舞台はいつもドラマティックで、人生で感じられるたくさんの喜怒哀楽が詰まっている。1つの演目をじっくり育てて熟成させていくタイプの踊り子さんだから、というのもあるのかもしれないけれど、演目ごとの密度や完成度がとても高い。表現に対する熱い想いと、人の気持ちに寄り添える優しさと、職人のようなこだわりを持つ、稀代の踊り子だと思う。

彼女は色々な文化芸術への造詣も深く、漫画も好き。前の芸名は安野モヨコの漫画「さくらん」の主人公から取ったし、引退作ともなった11周年作は、古代中華戦国大河ロマンを描いた漫画がモチーフとなっている。11周年作の衣装は、コロナの自粛期間中に制作したオリジナルだ。オフの日はお芝居を観に行くのが趣味らしい。

オナベの女王としても知られるーー勝手に呼んでるだけですがーー南美さんだけれど、彼女のベッドは褥のお相手の輪郭が見えるくらいに情熱的だ。幸せな愛の交歓のひとときを再現しているからこそ、真に迫っているのではないでしょうか。そんな彼女の「好き」がたくさん込められたラストステージは観る人の心を打ち、明日への希望を感じさせるような、どこまでも彼女らしいものでした。きちんとお別れの場を設けてもらって、とても有難いと思います。

そんな南美光さんの絶品フルコースを味わった後は、楽しくコミュニケーションするポラタイムも参加でき、話せてよかった。3回目は、100枚以上のポラを1時間以上かけて対応されていました。とても大変だったかと思います。

さてここで復習です。皆さんお忘れではないですか、オナニー引換券を!!TSミュージックの踊り子の引退興業の楽日にだけ配布するという伝説のオナニー引換券!識者によると1、2回目では未登場だったようで、外が暗くなって来た頃にようやく正体が明かされました。

来た人だけのお楽しみ…と言いたいところですが、軽くネタばらし。要するに、ポラの引換券の絵柄がオナベ中の姿となっているエッチな代物。作った人も配る人もいい意味でイカれてる、衝撃的な引換券です。私は「おお、これがあのオナニー引換券か・・」と生唾を飲みながら、卒業証書のごとく厳粛な面持ちで受け取りました。受け取れた方は記念になりますね!

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3回目ポラ中、劇場外に出ると常連さんたちが集まっていました。スト客オールスターズ・・!路上で集まる謎の集団を、道行く人たちは不思議そうに眺めます。ハロウィン?何?

自分もそんな百鬼夜行の一員となってしまいましたが、あんなに大勢の常連さんに会えたのは半年以上ぶりだったので懐かしくなりました。ご挨拶させていただいた方々、どうもありがとうございました。劇場に来るまでは引退の寂しさを感じてもいたけれど、一緒に分かち合える人たちがいたおかげで楽しい思い出が作れました。

さて、4回目のラストステージ・11周年作を終えて、いよいよ引退の儀が始まります。

ラストダンスは桜色のワンピースドレス。雛形ひろ子ちゃんの引退時に、その週の踊り子さんたちが作って踊ったドレスに似ていました。なお、ラストダンスは前日に振り付けしたそうです。沖縄弁で「縁起が良い」という意味のバンドの曲で「さよなら」を伝えてくれました(歌詞が泣けるのでググってみてください)。

盛大な拍手を受けた後、正月恒例の「獅子舞」を披露。裸に法被をまとって獅子舞を被ったので、下半身からヒップが丸見えの状態。エロスと笑いが融合した、有終の美を飾るにふさわしい舞い!お寿司が食べたくなる軽快な曲を流しながら、獅子舞「桃太郎」を器用に操って場内のお客さんの頭をガブリと噛みます。人を笑わせたり喜ばせたりするのが大好きな南美光さんらしい、サービス精神にあふれた一幕でした。

そして、最後のスピーチ。ほぼ全文だと思いますが問題があればご指摘ください。

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■南美光さんによるスピーチ

南美光「皆さん、ありがとうございました!この獅子舞『桃太郎』は、ちるちる☆いちるさんが二代目を引き継ぎます。連獅子の作品は箱館エリィさんが引き継いでくれます。今ここに居る人、来年の正月は絶対に劇場に行ってください!宣伝失礼しました」

いつの間にか、踊り子さんたちが場内に来ていた。全員瞳を潤わせながらじっと聞いている。

「ご挨拶をしなければと、昨日考えていたんですけれど・・・。今年はすごく大変な年でしたが、そんなすごく大変な時期を乗り越えて劇場にいらしていただいて、コロナ最中にも関わらず集まっていただいて、ありがとうございます。劇場に来て元気をもらってくれたら嬉しいです。

11年間、2009年9月中に新宿TSミュージックでデビューさせていただいて、1年休業を挟みましたが、約11年間、出会ったお客様方優しい方ばかりでした。踊り子さんも優しくて・・・ありがたいと思います。お姐さんがた、従業員さん・・・亡くなっちゃった方もいらっしゃるんですが、心の中で生き続けています。自分の心の糧としています。ストリップに出会えて、本当によかったと思っています。皆様も、ストリップ良いなぁとか、ストリップに心が救われるなぁと思っていると思います。斜陽産業ではあるんですけれど、昔のストリップは過激でしたけれど、もし未来に法律が改正されるのであれば、ストリップは芸能だよと、大々的に胸を張って言える日が来るといいなと信じています。」

(場内から、大きな拍手)

「人の心に残るものって、すごく重要だと思います。たとえ忘れたとしても、多分心の奥底で覚えていると思います。なので、好きな踊り子さんが辞めたから観ないという方もいらっしゃると思うのですが・・・冗談でそういうことを言ってくださるお客さんもいるんですが、観続けると楽しいことが待ってます。人との出会いがあります。1人でモヤモヤしてるんじゃなくて、ワーッと楽しいところに来てください。頑張っている女の子がいたら、手拍子や拍手をたくさんしてあげてください。踊り子さんたちはすごく喜びます。ここにいるお客さんがた、今まで業界を支えていただいて、本当にありがとうございます」

 

ミカド劇場の社長をはじめ、スタッフの〇〇ちゃん、〇〇ちゃん、〇〇さん(お名前なので伏せます)、これまで色んな従業員さんがいてくださったんですが、従業員さんたちのおかげで劇場が保ってます。劇場は人間くさいところもあるんですが、この人たちに支えられて、私たち踊り子はここに立っています。なので劇場がある限り、これからもストリップを観続けてもらいたいです。私は卒業してしまいますが、影で劇場の裏方みたいなのをやりつつ、今までに学んだことを活かして、人生を歩んでいきたいと思います。会えなくなっても、絶対、誰かと誰かの縁でつながっています。絶対に、劇場来てください。よろしくお願いします」

(場内から、大きな拍手)

■引退式

ちるちる☆いちる「きよ葉姐さん!お疲れさまでしたー!!」

ここで、客席のお客さんたちが一斉にクラッカーを鳴らした。いちるちゃんが持っていた、巨大なバズーカクラッカーによるキラキラテープが南美さんに直撃し、全員爆笑。

南美光「すごい、顔めがけてビョーンと・・笑」

ちるちる☆いちる「すみません!そして、我々踊り子一同からプレゼントがあります!」

踊り子さんたちが舞台袖を通ってステージに上がる。私服の方が多い中、いちるちゃんはシナモンロールの部屋着を着ていた。

ちるちる☆いちる「どうしよう、まともな服で来ればよかった。恥ずかしい」

そんないちるちゃんの司会のもと、進行します。マイクを使わなくても聞こえる声量すごい。ハキハキと迷いのない名司会でした。

■プレゼント贈呈

踊り子さんたちが一人ずつ、ご祝儀レイを南美さんにかけました。また、この後、お客さんを代表してファンの方からのコメントがありました。愛にあふれる立派なご挨拶でした。(ご本人に掲載了承をいただいていないので割愛します)お客さんたちから花束とご祝儀の贈呈も。たくさんのお花で盆がいっぱいになり、とても綺麗で幸せな光景でした。

■ラスト・オープンショー

そして、最後のオープンショーが始まります。お馴染みの曲をバックに、お客さんたちが代わる代わるご祝儀を渡しました。南美さんは、1人ひとりの目を見ながら「ありがとうございます」と感謝を述べています。曲3回分、最後のひとときを惜しむように、でもみんな笑顔で挨拶を交わしました。そして、お見送り。ラストパンツをプレゼントしながら。「まーやさん!」と言いながらパンツを投げてくれました。最高の笑顔で。

「11月1日からどこの劇場に行くか、考えながら帰ってね!」

最後の最後まで、南美光さんがストリップ劇場を愛し、ストリップ劇場の未来を信じているということが伝わる引退興行でした。

南美光さんは、今まで本当にたくさんのお客さんに幸せな時間を与えて、楽しい夢を見させてくれました。多くの人を幸せにした分、次は彼女にも大きな幸せが訪れることを祈っています。どうか、幸せに!