盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

横浜市立金沢動物園に行き、蕎麦屋で酒を啜る

大人になってからますます動物園が好きになった。別にゾウとかキリンとかスターアニマルでなくてもいい、トリとかサルでも何でも、毎日見ている人間とネコ以外のいきものが動く姿を目撃できるだけで驚くほど楽しい。

私だって人の子なので、子どもの頃は家族で動物園くらい行った。国内だけでなく国外の動物園に行った記憶もある。しかし獣医だった父親は「大抵の四つ足動物は殺したことがある」と言い、新しい動物のコーナーに行くたびにその殺し方を教えてくれた。しかも、動物由来の感染症に関する研究者でもあったため、その動物が伝播するウイルスや病気、寄生虫に関する情報も伝えてくれた。ウサギやモルモットに触れる「ふれあいコーナー」に行けば「屋外にいる動物には決して触らないように。健康そうに見えても、実は人にうつる病気を持っている可能性がある」と厳しく言われた。おかげで衛生観念は人並み以上に身についたが、異性とデートに行ってふれあいコーナーで「キャーカワイイ!」とウサギを抱えて映える写真を撮ってもらうチャンスは永久に失われた。病気の心配がない動物の骨格標本は触ることが許されたので、骨フェチになった。

横浜に越して良かったことのひとつに、すぐ行ける動物園の選択肢が多いことが挙げられる。徒歩で行ける野毛山動物園は無料だし、京急線ですぐの横浜市立金沢動物園、世界中の動物が集まるよこはま動物園ズーラシア、万騎が原ちびっこ動物園などがある。市区町村単位では国内最多だ。なぜ横浜市で動物園が充実しているのか、横浜が誇るメディア「はまれぽ」がその謎に迫っていた。

hamarepo.com

記事内では、横浜市長の思いが強いからと結論づけられているが、個人的には、横浜に動物園が多い理由として、港町なので動物を海外から運びやすかったこと、戦前戦後に多数開催された博覧会の目玉だったことなどが思い浮かぶがどうだろう。同じ理由で神戸にも魅力的な動物園が残っている。

ま、そんなわけで金沢文庫からバスに乗って金沢動物園へ。

www.hama-midorinokyokai.or.jp

f:id:sakariba:20210329180508j:plain

なんと動物園の導入展示がある。ディズニーのイッツァスモールワールド的世界観だ。

f:id:sakariba:20210329180519j:plain

キリン。柵がなくのびのびと生活している。野毛のキリンは窮屈そうなので、こっちのキリン人生の方が当たりだと思う。

f:id:sakariba:20210329180523j:plain

オカピ。お尻がキュートである。動物との距離が近く、いろんな角度から見ることができる。

f:id:sakariba:20210329180530j:plain

寝ているカンガルー。けだるそうに起きて、ぴょんとひと飛びしてくれた。

f:id:sakariba:20210329180537j:plain

サル。貴志祐介の小説「天使の囀り」のせいで、万が一ジャングルでお腹が空いてもサルの脳だけは食べてはいけないと学んだ。

f:id:sakariba:20210329180546j:plain

日本で1番大きいとされるインドゾウ。奥の個体「ボン」は牙がマンモス級の長さだと有名である。

のんびり歩き、2時間ほどで見終わった。日が傾いてきたので植物園の方はまた今度。BBQコーナーがあるので、コロナが落ち着いたら試してみたい。

小腹が減ったので、金沢文庫の駅に戻り、商店街の奥にあった蕎麦屋「壱」に立ち寄った。

f:id:sakariba:20210329180620j:plain

洒落た佇まい。注意しないと見逃してしまいそうな小さい入り口だった。

tabelog.com

初めて行った店だが「当たり」だった。肴が充実していて、安くて美味い。日も高いうちから蕎麦屋で軽く呑むことが楽しいと知ったのはいつだったか。軽いつまみを何品かつまみながら酒を啜って胃をあたため、最後にきゅっと冷えた盛り蕎麦で「締める」のが乙である。

f:id:sakariba:20210329180556j:plain

ビールで喉を潤したら、お酒にうつりましょう。長いも千切りに海苔をたっぷり乗せて、おまけに新鮮な卵黄を。擦りたてのわさびとともにいただきます。良い海苔を使っているのだろう、香りが立ってとても美味しかった。

f:id:sakariba:20210329180604j:plain

お猪口と焼酎を同時に持つ不届き者。蕎麦屋ではそば焼酎そば湯割を呑むのが好きです。

f:id:sakariba:20210329180612j:plain

締めのもりそば550円。庶民価格なのが嬉しい。つるつると喉越しよく、何枚でも食べたくなる美味しさだった。

蕎麦はいつ食べても美味しいし、関東ならば割と何処でも食べられるのが素敵だ。ワンコインで腹を満たせる駅蕎麦がそこら中にある日本は最高の国だと思う。かといって、箱根などのリゾート地で1食2,000円くらいする蕎麦は駅蕎麦の4倍うまいかと問われると納得できないが。どこまでいっても庶民のファストフードであってほしい。

大学在学中、貧乏に喘ぎ苦肉の策で友人と「Amazonの激安蕎麦」を共同購入したことがある。二八蕎麦が数キロ入って1,000円ちょっとだった。めっけものだ、これで次のバイトの給料日まで一ヶ月凌ごうと思ったが、うまい話には落とし穴があるもので「小麦粉2:蕎麦8」の二八ではなく「小麦粉8:蕎麦2」の八二蕎麦だった。ほぼうどんじゃん。来る日も来る日も不味い八二蕎麦を食べ、めんつゆの味に嫌気が差して袂を分かち、ペペロンチーノ蕎麦や蕎麦ラーメンにチャレンジするも撃沈し、最終的にはヤフオクでオタクグッズを売って生活費の足しにする際に荷物の緩衝材として使い切った。

蕎麦にはそんな苦い思い出があるだけに、自分の稼ぎで食う蕎麦の美味さも感慨もひとしおなのである。