盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

神保町シアターで「鬼の棲む館」を、シネロマン池袋で「美加マドカ 指を濡らす女」を観る

神保町シアター「生誕百年 映画監督・三隅研次と女優たち」特集で「鬼の棲む館」を観た。大好きな女優のひとり、新珠三千代が出演していた。

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恐らく公式ポスター。この新珠さん、仲間由紀恵さんに似ている気がする。

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主演であるはずの勝新を差し置いて、ポスターの画面1/3を佐藤慶が占めるバージョン。吸われているのは新珠さんの乳です。

S44('69)/大映京都/カラー/1時間16分

■監督:三隅研次

■原作:谷崎潤一郎『無明と愛染』

■脚本:新藤兼人

■撮影:宮川一夫

■音楽:伊福部昭

■美術:内藤昭

■出演:勝新太郎高峰秀子新珠三千代佐藤慶、五味龍太郎、木村元(木村玄)、伊達岳志(伊達三郎)、伴勇太郎、松田剛武、黒木現

南北朝の頃、盗賊が情婦と暮らす荒寺に現れたのは…。谷崎戯曲の映画化で、敵対する女を演じた高峰と新珠が火花を散らす異色時代劇。

谷崎は結構読破したと思っていたけれど、これは読んでいなかった。相変わらず冒涜的な物語で、女性上位の願望ダダ漏れである。出演陣やスタッフが豪華で、高峰さんと新珠さんに勝新が完全に食われているのが良かった。新珠さんは「洲崎パラダイス赤信号」で魅せた薄幸美人とは打って変わって、「白拍子(男装の舞妓とされているが、作中では娼婦のように扱われていた)」を演じるファム・ファタル的悪女も似合うというのが発見であった。当時としてはかなり大胆な脱ぎ(上半身ポロリは当たり前)&絡みのシーンが多かったが、カメラワークは首から下のみが目立ったので、スタントを用意したのだろうか。

続いて、にっかつロマンポルノ

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当代随一のアイドルストリッパーがロマンポルノに出演するとあって、上映時は相当な話題を呼んだらしい。

■配給:にっかつ

■製作年:1984

■監督:神代辰巳

■キャスト:美加マドカ 内藤剛志 広田行生 丹古馬鬼馬二 北見敏之 上田耕一 よしのまこと 麻生うさぎ 蘭童セル 藤ひろ子 高橋明 白山英雄 大江徹 庄司三郎 志水季里子 三戸部スエ

■脚本:斎藤博 神代辰巳

ストリッパーの未来まゆみ(本名・徳永君代)は蒸発した男との間に出来た赤ん坊がいる。まゆみは二枚目の舞台俳優、俊一郎と同棲しているが、彼は旅公演が多い。俊一郎がまた旅に出ることになり、いない間、まゆみの身の回りの世話をするために、彼の友人の勇次(内藤剛志)が来ることになった。肉体的には俊一郎を愛しながら、精神的には勇次を好いているまゆみ。二人の男の間で君代の心は微妙に揺れ動く……。

鬼才・神代辰巳が手がけた日活ロマンポルノ晩年の作品。神代は製作の前年1983年に肺気胸で入院し、片肺の機能はほとんど失っていたそうだ。酸素ボンベを携えての撮影だったとか。1970年代は年に4本程度ロマンポルノを撮っていたが、この時期は年1本程度にまで減っていた。そのせいか、作中のムードはどことなく暗く、退廃的で厭世的だ。

美加マドカについて知っている映画人はそう多くないと思う。ストリップ界隈に詳しい方ならばこの名前に聞き覚えがあるかもしれない。彼女は岐阜市出身の元ストリッパーで。1982年に神戸、新開地にあった「新劇ゴールド(現在は閉店)」にてデビューした。WIKIの引用だが、「十日間の興業が客が入りきれなくて二十日間延長になるという前代未聞の状況も引き起こし」たほどの伝説的な踊り子だ。TVやラジオにも引っ張りだこで、歌手デビューを果たすなど人気を誇ったが、1989年5月浅草ロック座にて引退。その後、故郷・岐阜市の柳ヶ瀬でスナックを経営しているとのこと。

こんな2人が組んだのならば、同じくストリップをテーマにした「一条さゆり・濡れた欲情」のような名作に仕上がったに違いない…と意気込んで観ると拍子抜けしてしまうかも。美加マドカのステージシーンは期待よりも短く、物語の中心ではないからだ。どちらかと言うと主役は内藤剛志だった。

内藤剛志といえば「科捜研の女」「警視庁・捜査一課長」など人気ミステリー&刑事ドラマの顔的俳優だが、当時の駆け出し俳優にありがちな話だが、彼もまた若い頃はロマンポルノに出演していたのだ。うん、確かに演技力は光るものがあった。今度「科捜研の女」で彼を見かけたら、美加マドカに言いように使われて行き所の無い青い性を持て余す姿を思い出し、胸がジンとしてしまいそうだ。