盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

シアター上野6月頭~休館前夜、2021年ラスト興行を見届ける

当ブログでも度々紹介してきた魂のホーム劇場・シアター上野が、2021年6月11日より8ヶ月間休業することとなった。その衝撃ニュースがストリップファン界隈に駆け巡ったのは、6月7日夜のことだった。

そもそもの発端は新年度になって間もない2021年4月のこと。4月14日の昼過ぎ、シアター上野に警視庁の捜査員が入り、公然わいせつ罪容疑で関係者が現行犯逮捕された。当日の状況は各種報道や有志のnoteなどで伝えられている。

www.yomiuri.co.jp

note.com

全国で数ある劇場の中でシアター上野がターゲットとなった理由やタイミングについては、東京都内がまん延防止等重点措置開始直後だったことや東京五輪を控えたナイーブな時期だったこと、新年度で警視庁の人事異動が影響したなどの憶測が流れているが、真偽は不明なので口を挟むつもりはない。重要なのは、その処罰の方だ。

逮捕された関係者は4月末までの数週間拘留され、その間劇場は休館し、釈放後すぐ5月1日から再開した。公然わいせつの刑罰は、刑法174条で「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金、拘留、科料」と定められている。今回は、8ヶ月の営業停止処分で決まったらしい。

上野では5月にも風俗店が摘発されている。ピンクサロン「マジックバナナ」でバナナを出した客と従業員が逮捕されたそうだ。こう連続して同地域でガサ入れが行われると、浄化作戦のための見せしめではないかと疑われても仕方が無い。

mainichi.jp

 

シアター上野の休業を知った翌日の昼、上野駅に降り立った。いてもたってもいられなかった。行政処分が確定してしまった今、ストリップ劇場の客である自分にできることは、残されたわずかな時間も客であり続けることだけだった。入場料を払って、ショーを楽しんで、劇場の収益になる活動をしたかった。

劇場に着くと、困ったような苦笑いをする従業員さんたちが迎えてくれた。検温、消毒。何を言えばいいか分からず、言葉少なに場内に入ると、平日1回目とは思えない人数が座っていた。みんな、同じ気持ちだったのかもしれない。とりあえず来るしかなかったのだ。(常連客のおじいちゃんたちはインターネットやってなさそうだから、何も知らずに来ていた可能性もある)

いつも通りに開演。1回目担当の投光さんの噛みっぷりもいつも通りだ。上野らしいマイペースさが、今はほっとする。場内を見渡すと、来週からの香盤表が撤去されずに貼り出されていた。単に撤去するのが面倒だっただけだと思うが、何となく、「敢えて撤去しない」という意思をくみ取ってしまうのは、こんな状況だからだろう。その香盤が3日後に実現することがないことはみんな分かっているけれど、この場内にいる限り、夢見ることができる。

この週は平日2回で終了することが多く、1日通して5人しか来場せず、その中でも2人しかデジを買わなかった日もあったと聞いた。それが休業が知らされた翌日にはほぼ満員に変わった。当然3回まわしだ。青天の霹靂、急転直下。かくいう私もその1人なのでゲンキンだと思うが、いつ何時も悔いの無いように、行きたい場所に足を運ばないといけないなとつくづく実感させられた。(コロナ禍、それはかなり難しいけれど)

やっぱり駆けつけてよかったと感慨にふけり、「今年はこれで見納めかな、楽日は予定が詰まっているから再訪は難しいな…残念だな」とぼんやり考えていた3回目、虹歩さんのステージをヨシダッチの投光で観た時、気が変わった。あ、これ楽日も来なきゃダメなやつだ。この人たち、まだまだ進化させる気だ。きれいに予定調和でしんみり終わらせるつもりないし、舞台があって営業できる限りは面白く楽しく足掻くつもりなのかも。そう直感した。ステージは生き物で、まだ死んでない。

 

そんなわけで、6月10日の千穐楽、終業後に3回目駆けつけました。コロナ前の日常を思わせる満員御礼。他の劇場でも魅力的な香盤そろい踏みなのに、上野好きの猛者たちが集まった。マスク越しでも分かる久しぶりの顔ばかりで嬉しかったな。満足におしゃべりすることもできない状況なので、コロナが収束したら全員と乾杯したい。米寿のおじいちゃんが来てて、「次は卒寿をシアター上野で祝うぞ」と意気込んでいた。いい話だ。

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せっかくなので、簡単にステージの感想をば。問題があればご指摘ください。

ここだけの話ですが、場内の様子を書いている以上、当局が当ブログを見て摘発の参考にした可能性はゼロではないと思っています。ただ、文章化する際には諸々念頭に置いて表現するように当初より心がけています。ストリップ劇場が無くなってほしくないので今後も気をつけますが、一人でもストリップに興味を持つ人、劇場に行く人が増えたらいいなと思ってブログを続けています。なので、ステージの描写は、私の琴線に触れた事柄や、みんなに知ってほしい良さ・楽しさだけを伝えられるよう精進してまいります。

 

[シアター上野、2021年6月1日~10日の香盤](敬称略)

1.一条ダリヤ

2019年11月デビューで芦原ミュージック劇場所属の踊り子さん。お名前はたくさん拝見して評判も聞いていたのですがタイミング合わず初見でした。「瞳にキッス」「約束」を拝見。むっちむちの太ももと白く艶やかな肌、しっかり鍛えられた体幹、サラサラの黒髪、キラキラの笑顔が素敵な期待の新人さん。温泉場でガッツリしごかれたのでしょう、お客さんを楽しませようとするサービス精神と魅せ方が素晴らしく、新人らしからぬ肝の据わりっぷり。お酒が入った状態だと気持ちよくなっちゃうであろう選曲だし、オナベ中の表情がとってもエッチだし、ポーズを決めたままウインクされた日には、たとえ一見さんでも射抜かれちゃうと思います。末恐ろしいおじさんキラー。

 

2.鏡文杏未

観る度、女優だなと思う踊り子さんが数人いて、彼女もその一人。演目ごとに確固とした世界観・物語が構築されていて、私たちはほんの数シーンを垣間見させてもらっている感じ。この方の舞台は、展開するストーリーを想像させる余地…自由があって、物語に引き込む力がかなり強いと思う。とは言え小難しくなく、にっかつロマンポルノみたいな快活なエロなので嬉しい。あと選曲がいつも激シブで好き。和服演目で、傘や小物さばきが巧く、流れるような日舞に惚れ惚れした。前回観た時から色気が増している気がした。

 

3.悠木美雪

TSミュージックが誇るイケメン踊り子。今、抱かれたい踊り子ナンバーワンなのでは?びっくりするくらい小顔で手足が長いので、同じ人間とは思えない。妖精族だと思っている。もしくはフィギュア。演目は「護森人」「華詩人」「神片想イ」。足を上げるポーズを決めた時、太ももからつま先まで180°真っ直ぐなのが本当すごいと思うんだ。膝がボコッとしたり、ちょっと歪んだりするのが普通の人体なのに、どういう構造なの?トップモデル並みの美しいお身体だと思います。拝ませていただき感謝。

 

4.翔田真央

「コギャル」はちょっと前の渋谷にたむろしていた女子●生演目で、健康的に日焼けした彼女によく似合う。雑誌「egg」を愛読して、ラルフローレンのカーディガン着て、かがんだらパンツが見えるミニスカで、ソックタッチでルーズソックス留めて、薄汚れたぬいぐるみのついたピッチを手放さず、通学用のスクールバッグを背負っちゃう女の子。健康的にエロくて、勉強は嫌いだけど学校はちゃんと来てて、体育は得意で、他校の先輩と付き合ってる噂があって、もう処女は捨ててるっぽくて、頼んだらやらせてくれそうで、でも以外と純なところがある、隣の席の女の子。そんな感じ。(後半は妄想です)あ、もう一つの演目の立ち上がり曲が「彼女は夢で踊る」のあの曲で、広島を想起させて大変エモかったです。

 

5.虹歩

演目は「M●●●●」と「東●●●」。3月に23周年を迎えたベテラン踊り子のはずなのに、少女のように可憐でいつ見ても若若しい。ステージはいつも最先端で、挑戦的で、格好いい。最近ご無沙汰だったので久々に拝見したのですが、髪型が変わっていて素敵でした。ちょっとシャギー入れてアッシュな色で。

今回の虹歩さんの演目をさらに魅力的に魅せたのはヨシダッチの投光だった。舞台床面から照射するロアーホリゾントライトと、LEDピンスポットが良い仕事をした。

ホリゾントライトから照射された色とりどりの光は白いホリゾント幕の布に反射し、幕そのものを染めたように見せてくれる。晴れた日の抜けるような青空、草原の緑色、夕暮れの茜色、神々しい黄金色、官能的なピンク色。虹歩さんの激しいダンスを際立たせるのは、フォローピンスポットライト。

これは操作のキッカケが難しく、演出の内容を理解して何度も練習しないと上手くいかない。こうした照明効果によって舞台に奥行きが出て、小さな舞台のはずなのにいつもより広く見えてくる。

シアター上野は、巷では場末のストリップ劇場と思われているかもしれない。まぁそういう良さもある。でも、こんなにも複数の照明を同時に操作できて、立体感のある舞台を演出して、女性の美しさを際立たせられる空間、なかなかないと思う。

 

急に決まったシアター上野の休館、虹歩さんはその前週のトリを務めることになり、実質的に2021年の上野のトリを飾ることになってしまったわけで。客側も驚いたけど、踊り子さんたちはもっと驚いたし、ショックだったと思うんですよ。予想外に2021年ラスト興行となったことで、少なからずプレッシャーも感じたはずなんですよ。そのつもりで演目持ってきてないし。6月中以降の職場がひとつ減ってしまったことも痛いだろうし。

でも、踊り子さんたちはお客さんにはそんなそぶりをひとつも見せず、全力で楽しませようとしてくれた。プロだと思った。今できるステージで、最高のパフォーマンスを披露してくれた。最終日の最終回、ステージの照明が消えるその瞬間まで、惜しまずに出し切ってくれた。

躍動する肉体に負けないよう、照明と音響も全力で頑張って、クリエイティブがバチバチにぶつかって火花散ってた。お客さんも、そんな舞台をしっかり最後まで見届けようと必死に応援して、すごく良い雰囲気だった。粋だった。

 

すべてのステージが終了して、場内が明るくなった。虹歩さんがステージからお辞儀をして、みんなで盛大な拍手をした。その後、投光席とスタッフたちにも惜しみない拍手がおくられた。誰も席を立たず、もしかしてフィナーレするんじゃないの、ひょっとしてこのまま4回目突入するんじゃないの、って雰囲気すらあった。ヨシダッチが口火を切った。

「本日のステージ、今週の公演はこれで終了です。明日以降、シアター上野は8ヶ月休館いたしますが、再開後はまたのお越しをお待ちしています」

終わりの時間が来てしまった。けれど、みんな笑顔で「また来年ここで会おう!」「再開後のトップバッターは虹歩さんだな」なんて話していた。再開したら必ず行くと宣言する客がこんなにいるんだから、絶対に営業を続けてほしい。

湿っぽさなんてみじんもなくて、最後までいつも通りの上野だった。笑って、楽しんで、散って、集う。

また、集おう。