盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

魔法使いと職人のいるところ〜推しのバーテンダーたちに会いに行く

11月になった。霜月。温暖化も相まってハマに霜なんてほとんどつかないけれども。

ここ数年、というか社会人になってから、10月から2月までの記憶があまりない。繁忙期と年末進行、期末が重なるので加速度的に忙しくなるからだ。10月後半に自分の誕生日があって、ハロウィンを超えたら年末までノンストップになる。

そんな中でも忘れてはならないのが酉の市。元・下町の民(上野〜浅草がホーム)としてはゆく年を締めくくり、くる年を迎える大切な準備なのだ。地元で商売やってる人らは特に敏感で、毎年この時期になると「いつ行く?」「一の酉行ったらすごい人出だったよ」と世間話をする。

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昨年の末にハマに越してきたので、2020年の酉の市は浅草・鷲神社で行った。かれこれ5年も行ったのか。500円から始めた熊手も少しだけ大きくなった。

今年は氏神様へのご挨拶がてら、ハマの酉の市に行くことにした。二の酉は日曜日で混みそうだから、平日の一の酉に行った。午前中まで冷たい雨が降っていたが、夕方にはすっかり止んでいた。

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人出はあるが、予想したほどではなかった。浅草の来年の混雑ぶりからすれば可愛いくらいだ。とはいえマスクはしっかりして、短時間で用件を済ます。

今年もお祭りらしいお祭りには行けなかったから、久方ぶりに露店がたくさん並ぶ風景を見た。活気があってよろしい。若い子が多くいたがみんなマスクをしっかり付けているので素晴らしいね。たくさんの人の笑顔を見ると元気をもらえる。

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さて熊手選び。猫飼いなのでいちおう毎年、猫熊手・猫枡を選ぶようにしている。数店舗流しながら作り手ごとの個性を見極める。ふむ、ここは大手向けのサイズ展開だな、こちらはぬいぐるみをつけるタイプね、なんて。

気に入ったデザインで手頃なモノを見つけたので購入。本当は大きな熊手を買った人にしかやってくれない手締めを図々しくリクエスト。笑顔で応じてくれた。やっぱり手締めしてもらえるとありがたさが増す。稲穂もマシマシにつけてくれた。一年間大事にします。

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さて、用件完了したので撤収。屋台メシに後ろ髪を引かれつつ、イートインスペースがなく露店はテイクアウトオンリーなので来年のお楽しみに。たこ焼きや串ものはアツアツを頬張るのが楽しいからね。この時期、人混みでの食べ歩きはマナー違反だ。あぁ、でもジャンキーな焼きそばの視覚的パンチ力や強烈なソースのにおい、鉄板焼きのじゅうじゅう音にヤられちゃった。

ちょうど近くにあったヒジテツさんに初来店。気になっていたのよね。

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鉄板焼きを食べて屋台メシ欲を満たしましょう。モロッコ風の洒落た店内が素敵だ。食事は野菜や焼き物が美味しいし、グラスワインも手頃で美味しいのがたくさんあって、デートにも使えそうなお店でした。

まだ時間も遅くないし、もう一軒だけ。今夜はお祭りの余韻にまだ浸っていたい。東京事変の「御祭騒ぎ」を脳内BGMで。

行き先は、今いちばん夢中になっているバー。関内駅からほど近い路地裏にある「Bar Prima(プライマ)」だ。

https://www.instagram.com/bar_prima0708/?hl=ja

ここは、10月に初めて行った。ときめきと感動をくれる、魔法使いと職人のいるところだ。

実在の人に対して「魔法使いみたいですね!」と言ったのは生まれて初めて。ジャンルで言えばミクソロジーカクテルバー。果実やスパイス、薬草や茶葉、珍しいリキュールなんかを使い、お客さまの好みに合わせて、恐ろしく手の込んだ一杯を提供してくれる。一口飲めば世界が変わる魔法のようにキラキラしたカクテルから、尋常じゃない集中力と技術が詰め込まれた職人技のカクテルまで、振れ幅大きい至高の一杯を届けてくれる。

緊急事態が明けてお酒提供ができるようになったので、休業明けて復活したバーも多い。色々なお店を飲み歩いて開拓したい気持ちは山々なのだが、上述した通り繁忙期に入ったのでそんな余力&体力もあまりなく。盛り場放浪は夢のまた夢で、馴染みの店に細々と顔を出すのが精一杯だった。そんな状況でも、このお店にはご縁があって行かせてもらい、すぐに大好きになっちゃったのだ。

 

****ここから回想****

 

ここのカクテルを初めて飲んだ晩、世界が反転するくらいびっくりした。近くに、こんな素敵なバーがあったなんて。

一限のバーにお邪魔した際は、たいてい「ジントニックをください」と言うようにしている。ジンの種類を聞かれたら、酒瓶を眺めながら気分で選ぶけれど、多くはタンカレービーフィーターが使われている。

バーテンダーのアルバイトをしていた学生時代、初めて作ったカクテルがジントニックだった。基本にして王道。ジンのバーの格とバーテンダーの腕はジントニックを飲めば知ることができる、と酒飲みの師匠に教わった。

そんなわけで、ここでも初来店の一杯目にはジントニックをオーダーした。

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初回。帽子を被ってエプロンをつけたバーテンダーのYさんが作ってくれたのは、ハーブ感とスパイス感たっぷりの、国籍不明のオリエンタルなジントニックだった。それが、めちゃめちゃ美味しいのなんの。そしてしっかりジンの味もした大人向けカクテル。えっ、初めて飲む味なのに、ちゃんとジントニックだ。これ、好き。

聞いたところ、甘いジンと辛いジンをブレンドして、色んなスパイスで漬け込んで、仕上げにベルガモットをシュッと吹きかけて火をつけている。ちょっと飲んだことない、でもめちゃめちゃ美味しいジントニックだったのだ。

2杯目はギムレットを頼んだ。私とバーに行ったことのある方ならお分かりですが、ジントニックギムレット→フルーツカクテル→マティーニウイスキーの順で飲むパターンが多いです。ジンの海で溺れたい。

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お次のギムレットもすごいのが出てきたぞ。バーナーで炙ったローズマリーが載っている。これまた美味しいし飲みやすい。そうそう、こういうライムの効いた酸っぱめのギムレットが飲みたかったのよ。夢に出てきそうな味わい。

3杯目、夢心地すぎて何を頼んだか覚えていない。まぁこの時はシャンパンとワイン1本開けてだいぶゴキゲンだったから記憶が朧げなのはご愛嬌。

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んで〆にアレキサンダー。Yさんにお任せで寝酒を作っていただいた。甘さ控えめなのにミルク感あって癒される。帽子を被ったYさんがだんだん魔法使いに見えて来る。トンガリ帽子に、魔法のケープ、魔法の杖(バースプーン)に空飛ぶホウキ(シェーカー)。…好き!

 

いい店見つけたなー、次は一軒目に来てみよう、と思って行ったのが2日後。バーフードも色々美味しそうなのが黒板に書かれていたのを目ざとく見ていたので、それも目当てで。

すると違うバーテンダーさんがいらした。Kさんと仰って、物腰丁寧で地に足のついた職人風の出立ち。両方ともハンサムなのが目の保養です。聞くと2人で経営しているらしく、店主はYさんだけれど別のお仕事もあるので分担しているとか。

ジンリッキーをオーダー。美味しい。オーダーしたカレーにもよく合う。というかカレーもスパイスが爆発しててめちゃ美味しいな?このあとソーセージやいくつかいただきましたが、どれもバーフードの域を超えたレベルでした。

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Yさんの作るキラッキラなカクテルとは違い、クラシカルなのにものすごい独創的なパワーがあるカクテル。それぞれ得意分野があって自由にオリジナルカクテルを作るのが店のコンセプトのよう。ならばKさんの得意分野ってなんですか、と聞いたところ、チーズとお茶とハーブとのこと。ほほう。

じゃ、チーズと、チーズに合わせて赤ワインをグラスでください!カクテルはその次に飲みます!という目の前のチーズ欲に負けた私。熟成されたチーズたち最高でした。

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ようやくハーブで一杯。香りが強くて草感が最高。ファイナルファンタジーに出てくる回復薬のポーションってこんな味だと思う。

飲みながらKさんの話を聞く。チーズを作りに北海道に修行に行ったり、店中にお茶っ葉とハーブのストックを置いていたり、特殊なハーブを栽培するために畑をつくったり、好きなことに一直線で凝り性なタイプのようだ。バースプーンが工具に、シェーカが耕運機に見えてきた。…好き!

じゃあ、次はお茶を使ったフルーツカクテルを、とオーダー。すると、急須を出してきた。急須にお酒を入れて温め、茶葉成分を抽出するのだ。文字にすればあっけないのだが、バーナーを使ったり急須を回したり、もはやバーの域を超えていそうな、というか調理ですか?という感じに。一杯のためにゆっくりじっくり工程を積み重ね、最高の状態のカクテルを提供してくれる。やっぱ職人だ。

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マスカットの皮の渋みとカテキンの渋みがベストマッチする。少しでも分量を変えたら壊れてしまう繊細な味わい、絶妙なバランス。マスカット単体で食べるより好きかもしんない。

大変失礼かもと思いつつ「変態ですね」という素直な感想を伝えてしまった。「ありがとうございます、最高の褒め言葉です」と笑顔で返された。

最後はお任せ。

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コーヒーを使ったラテっぽい一杯。お風呂上がりにグイグイ飲みたいやつ。美味しい。何飲んでも全然違うので面白い。奥が全く見えなくてスゴイぞ、この店。

 

****ここまで回想****

 

長くなりましたが、そうして3回目、酉の市帰りに立ち寄ったのが先日。

インスタで載っていた11月のカクテルが気になりすぎた。「牡蠣のオールドファッションド」。

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や、牡蠣て何。レシピ見ても意味不明だ。自家製青のりビターズ?焼き海苔?スモークオイスター(本物)?

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飲んだ感想は「飲める海」。うまい生牡蠣を置くレストランにボウモアがないように、ボウモアを置くバーには生牡蠣はない。ならば牡蠣とボウモアのカクテルを作っちゃおうというコンセプトだと勝手に解釈。新世界すぎて脳が追いつかなかったけれど挑戦的かつ面白い一杯です。ぜひお試しあれ。

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ブレックファースト・エスプレッソ。マティーニだけど朝から飲みたいやつ。

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〆は絶対飲みたかったラムチャイ。6種のスパイスであったまる。好きなやつ。寝酒に最高。

 

そんな時、Yさんがいらした。別のお仕事の帰りだった。再会が嬉しい。Yさんは翌日に店にいるという情報をもらった。どちらの日も楽しいカクテルが飲めていいなぁ。はっ、まさか、魔法使いと職人の2人ともに会いたいから、結果的に来店頻度が上がるという策略か!

無事、策略に引っかかり、魔法使いにも会いたくて翌日もPrimaへ。その日は友人とクラプローネさんで楽しくワインを飲み比べして、〆カチョエペペした後に。

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クラプローネ→Bar Primaというゴールデンルートを開拓できたことが、2021年良かったことベスト5に入るかもしれない、本気で。

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北海道のクラフトビール「ノースアイランドビール」で乾杯。
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早い時間に行くとタイムサービスでこんなお通しが。ふわふわモッツァレラのかかったバゲットが最高。
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みかんのサラダ。胡椒きいててお酒進む味。
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グラスワインをオーダーしたら「どれにします?」が始まる。うーん、飲み始めたら覚えられなくなるから、左端から順番に全部!(ほんとにこう言った)
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さといもゴルゴンゾーラ。赤ワインが進むやつ。
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ワイン一本ずつに丁寧に説明が書かれていて、読みながら飲むのが楽しい。
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鶏肉香草和え。ここは一皿をハーフサイズにしてくれるので、食べたいモノを気軽に頼めて嬉しい。大皿で来ると2-3品しか頼めないからね。
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出物。とっても美味しいワイン。こういう血のように濃くてぶどう味が強いワインが好き。
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ザブトンのステーキとともに。私の血となれ肉となれ!
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待っていました、〆のカチョエペペ。基本はペコリーノ・ロマーノとブラックベッパーだけなのに何故にこげにうまいのか。イタリア料理の真髄である。
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ワルなので〆の後にリゾットも食べた。
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グラッパもいただいた。
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グラッパ入りのチョコレートもいただいた。ジャリジャリ甘くてお酒たっぷり。ポケットに忍ばせておいて雪山で遭難した時に食いたい。
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贅沢にもアマローネで〆ちゃう。はー、極楽。
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チーズは欠かせません。薄いのを口内で溶かしながらワインとともに味わうと絶頂。ごちそうさまでした。

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さ、数分移動してBar Prima。魔法使いに会いに来た。これは1027というオリジナルカクテルで、食後にピッタリ。今まで飲ませてもらったのもそうだけど、全体的に女性的で優しい風味が多い気がする。しっかりアルコール使ってるのに飲みやすくて。身体にいいことをしている気分だ。
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お任せしたら焚き木が始まった。Yさんは魔法使いの上、マジシャンなのかもしれない。エンターテイナーだなぁ。火を見ながら飲むカクテルも良いですね。パチパチ火花を眺めて、焼印押された氷がカランとなる音を聴いていると、俗世のイザコザや現実社会の多忙を忘れられる。

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本当の〆はこちらで。リンゴのカクテルでした。華やかなでスッキリ甘くて好き。何作ってもらっても美味しい。よし、通うぞ!

 

この世に素晴らしいバーは数多くあれど、結局足繁く通うのは推しのバーテンダーがいる店になる。「スリーマティーニ」のYさんしかり、「キネマ」のYさんしかり、「Peat House」のIさんしかり。人に店の魅力あり。今夜もすべてのバーで幸せな一杯がありますように。

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酉の市の縁起物を検品する黒猫。
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検品クリアしたので玄関に。一年間よろしくね。家内安全、健康第一、商売繁盛、美酒佳肴!