盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

2021年公開の新作映画・私的ベストを考える

まだ2021年もあと1か月半ありますが、たぶん変わらないと思うので、今年観た新作映画の私的ベストを早々に決めました。それぞれ1位はまだどこかで上映しているので、未見の方は是非に。どちらも映画館で観るべき作品です。

 

【2021年マイベスト洋画】

1位「アメリカン・ユートピア

次点「ノマドランド」か「オールド」

americanutopia-jpn.com

私の周りの映画好きも大体1位は「アメリカン・ユートピア」です。50年に一度の大傑作でしょうね。

これは、2019年に行われたブロードウェイのショーを映像化したライブ・パフォーマンスムービーで、まったく新しい形のエンターテインメントです。元トーキング・ヘッズのフロントマン、デイヴィッド・バーンと聞いてピンとくる人は全員友達、誰だそれ知らんという人はラッキーですね、これから知ることができます。

生演奏の音楽とライブな歌とダンス・パフォーマンスで、こんなに心に響く刺激的なメッセージを発信することができるなんて知らなかった。ジャンルで言うと、TEDの講演が近いような気がする。4回観て、毎回違うシーンで涙を流した。この世のすべてのクリエイターはこれを観て勇気づけられましょう。カメラワークと映像も完璧です。

結局のところ、「人がいちばん面白い!」ってことと「自分で考えて、自分で決めようぜ」というメッセージを伝えたい作品なんだけど、その伝え方が秀逸でめっちゃ新しい。新しい映像の世紀に入ったな、と実感した。Blu-ray予約したので、来年のテレワークは常に流していたい。この作品を観ることができただけでも2021年を生き延びてよかったと思う。

 

【2021年マイベスト邦画】

1位「ドライブ・マイ・カー」

2位「あのこは貴族」

dmc.bitters.co.jp

anokohakizoku-movie.com

洋画・邦画ともに女性監督躍進の年だったなと思う。「あのこは貴族」の岨手由貴子しかり、「ノマドランド」のクロエ・ジャオしかり。繊細な感性と確かな映像力で深いストーリーの波に引き込まれる瞬間がたくさんあった。

女友達が悩んでいたり、もし自分や友人に娘ができたら「あのこは貴族」を観せたい。おんなが、おんなであることの辛さや幸せを一緒に分かち合いたい。そういうウェッティーな感動もある一方、日本に確かにある「階層」をリアリティたっぷりに描き出した(えぐりだした)監督のドライさにも感動した。そして、それを演じた素晴らしい役者たち。この俳優陣でなければ成立しなかった調和があった。門脇麦水原希子高良健吾の素晴らしい演技に拍手を送りたい。

そんな「あのこは貴族」を押さえての邦画ベストは、やっぱり「ドライブ・マイ・カー」。もう、ひっさびさに、鑑賞後に打ちひしがれた。立ち直れなくなるくらいの傑作。なに、何が起こった?今何観たの?人生そのものを観たって感じ?

「ドライブ・マイ・カー」は村上春樹原作の小説なんだけど、小説自体は数十ページの短編で、短編集「女のいない男たち」の中の物語。このたった数十ページが179分もの映画に化けるんだから面白い。179分て。3時間ですよ。新幹線で東京ー岡山間が3時間20分、東京ー新青森間が3時間10分です。ずっと座っているとおしりが痛くなる距離ですね。でもあっという間だったぞ。心はもっとずっと遠い場所に連れていかれた。監督に心からスタンディングオベーションを送りたい。どうやったらこんな脚本が書けるんだろう。オリジナル要素や原作を改変した箇所もあるけれど、正直なところ原作よりも原作らしいし、村上春樹より村上春樹のことをわかっているんじゃないのか。

村上春樹原作の映画は「ノルウェイの森」「バーニング」「神の子どもたちはみな踊る」などありますが、ぶっちぎりでこれが現時点の最高傑作ですね。

俳優陣も素晴らしかった。西島秀俊の人生に疲れた変人演劇人ぶりも堂に入っていたし、三浦透子のドロンと死んだ目も最高だし、岡田将生のダメ男演じたら日本一ぶりも健在だし、みんないいんだけど、でもやっぱり霧島れいかに惚れちゃいました。あの色気…!スクリーン越しにもダダ漏れの色香が尋常じゃなかったです。私も将来、ああいう悪魔的熟女になって、何人もの男の人生を狂わせてみたい。うん、無理だな。

この映画も最終的なメッセージは「どんなに辛くとも、生きていかなくちゃね」なので、世界的危機のコロナ禍にあって、世界中のクリエイターが同じ方向を向いていることにハッとされられたのでした。災厄後と災厄前、カタストロフを「生き残って」しまった者たちのすべきことは、残念ながら生き残れなかった者たちのことを忘れず、悼み(メメント・モリ)、死ぬまで生き続けることだけなんですよね。

 

そのほか観た新作映画はこんな感じ。緊急事態や営業短縮などの煽りも受けて、あまり観られなかったな。旧作名画は、神保町シアターが少し遠くなったので月2本くらいしか観ていない。横浜に名画座がないのが口惜しい。映画情報は、今の上司が好みの合うシネフィルなので、お互い良かった映画をシェアしています。仕事の話よりも映画の話している時間の方が長い気がする。来年はもっと観るぞ~!

 

【2021年に観た新作洋画】

「クルエラ」「プロミシング・ヤング・ウーマン」「RUN/ラン」「ゴジラvsコング」「クーリエ 最高機密の運び屋」「グリーンランド」「アナザーラウンド」「新感染半島ファイナルステージ」「DUNE/デューン 砂の惑星」「ノマドランド」「JUNK HEAD」「ファーザー」「オールド」「アメリカン・ユートピア

→この中では「オールド」も出色。M.ナイト・シャマランは信頼できる映画人だ。常に「スリラー」というジャンルを更新してくれる。

 

【2021年に観た新作邦画】

「映画大好きポンポさん」「花束みたいな恋をした」「街の上で」「まともじゃないのは君も一緒」「ヤクザと家族 The Family」「キネマの神様」「孤狼の血 LEVEL2」「さんかく窓の外側は夜」「竜とそばかすの姫」「リョーマ!The Prince of Tennis 新生劇場版テニスの王子様」「名探偵コナン 緋色の不在証明」「すばらしき世界」「あのこは貴族」「ドライブ・マイ・カー」

→特別出来のいい映画じゃないけれど「孤狼の血 LEVEL2」の鈴木亮平ちゃんにMVPを贈りたい。LEVEL3も製作決定だそうなので楽しみ。

 

【見逃した/これから見る新作映画】

「ブックセラーズ」「エターナルズ」「漁港の肉子ちゃん」「空白」「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」「劇場版 きのう何食べた?」「ずっと独身でいるつもり?」「アンテベラム」「マリグナント 狂暴な悪夢」

→「マリグナント 狂暴な悪夢」はホラー好きとしては見なくてはならない。ポスターが「サスペリア」ぽくっていい感じ!

「ずっと独身でいるつもり?」は敬愛するエッセイスト・雨宮まみさんの原作が好きなので、こじらせ女子としては彼女の追悼のためにも観ようと思う。どうかいい映画でありますように。