盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

カレーディナーという選択肢~関内「スパイスドランカーやぶや」で脳内トリップ

カレーの街ってどこだろう。

今までは「神保町じゃない?ボンディ、エチオピアまんてん、カーマ 、共栄堂 、マンダラ、ガヴィアル…数歩歩けばカレー屋に出くわす街だよ、神保町は。もしくは御徒町南インドカレーのメッカだよね。アーンドラ・キッチンやヴェヌスは一度行く価値があるから」と考えていた。

しかしながら、横浜に越してきたら「横浜も結構カレーの街じゃない?」と思うようになった。カレー選手権自由形、個性派揃いのパンチの効いた店が多い。間借りカレーのレベルもやたらと高い。グルメ雑誌「dancyu」2021年8月号「スパイスとカレー。」にも、横浜のカレー屋が何店か紹介されていた。

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関内でカレーと言えば「丸祇羅 (マルマサラ)」。美しすぎるプレートもさることながら、国籍・季節不明の店内も素敵。ビールも飲みたいけどいつも混んでいるので遠慮がち。休日は避けて平日がおすすめ。
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桜木町の間借りカレー「スパイス食堂」。木曜日の昼しか営業していないので狙って行って。食べると元気になるのでお疲れさまにぴったりです。
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桜木町の間借りカレー「ムムム」。木曜と金曜だけだっけな。どうやって作っているのかまるで分らない複雑な味わいが魅力。

 

カレーを嫌いな日本人ってほとんどいないと思うけれど、どうしても「ランチ」のイメージが強いのではないだろーか。上3店もすべてランチだし。サラリーマンにとっては忙しいビジネスアワーを縫って掻っ込む補給食。ご家庭にとっては冷蔵庫の余りものを全部ぶち込んで数食稼げる国民食

そういう人には是非!「カレーディナー」という選択肢を持ってほしい。カレー屋のコース料理、あなどるべからず。食いしん坊の彼氏彼女(もしくはそれ未満)との非日常デートに絶対おすすめです。距離を縮めるための焼肉や焼き鳥のカードは使い切ったし、気取ってフレンチって気分じゃないし、和食はちょっと堅苦しい…そんな時はカレーです!「インド料理でフルコース」どんなものが出てくるか想像つかないでしょ?そのドキドキ感、食べた時のワクワク感、まるで海外旅行に行ったかのような体験が、ほんの2時間で味わえるので、めちゃくちゃコスパ高いと思う。

 

おすすめのカレーディナーをいくつか紹介。

まずは鉄板「エリックサウスマサラダイナー」

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こちらは季節ごとに独創性の高いフルコースを提案してくれる、誰を連れて行っても喜ばれること間違いなしの名店。ここでデートして盛り上がらなかったら諦めたほうがいいでしょう。お酒が飲める方はワインをボトルで頼んで、ゆっくり味わって。

2021年冬のコースはこちら。どんな料理か想像つかないでしょ、楽しいんだこれが。人気店なので予約必須。

・鯖プットゥとブルーチーズのサンドウィッチ

・グシュタバ 根付きセロリの石窯焼き

コルカタ風野菜スープ

赤海老とカジキマグロのボッタ

・春菊、柿、セロリのサラダ

・豚肩ロースのマスタードグリル、ブラックキーマグレイヴィ

・わんこカレー

・紅玉アップルドーサ

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「東京カレンダー」みのある写真。カレー食べていい雰囲気になったら、円山町に移ってムフフな夜を過ごしてみてはどーでしょう。たぶんお腹いっぱいで難しいと思うけど…

 

続いても超有名店「ダバ インディア」。10年前に初めて行って、以来南インドカレーの虜となった。

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ランチ時は大変な混雑なので、夜に予約していくのが正解。コースでなくアラカルトが色々頼めて楽しい。ビリヤニは絶対食べてほしい。

「シターラ」も美味しかった。上2店よりも高級感ある店内なので、ロマンティックなデートに合うかも。インドの5つ星ホテルのシェフがいるとか。甘くないラッシー初めて飲んだ。

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ほかにも名店たくさんあるけれど、今年初めて行った「スパイスドランカーやぶや」には一発ノックアウトされてしまった。場所は関内駅。そう、横浜エリアで夜行きたいカレー屋を見つけたのです!というか、このお店を書きたいがためのカレー記事です。

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こちらはスパイス料理で日本酒(熱燗)を呑み、南インドミールスで〆るコース居酒屋。開店から短期間で食べログの百名店に選出されたそうで、グルメ雑誌にも特集されたり、グルメライターがこぞって絶賛していたので、絶対行かねばと思って狙っておりました。緊急事態宣言中はノンアルコールだったので、宣言明けてお酒復活のタイミングで行くことができた。

イセザキモール入り口すぐの路地の3階にあり、8席MAXの完全予約制。店主はワンオペで19時に一斉にスタートするので遅刻厳禁だ。

 

「日本酒とカレー!?どうなのよ、それ」って思うでしょ。分かる分かる。私もやぶや未経験時はそう思っていた。今や、燗酒とスパイス料理がこんなに合うものかと…これ以外の選択肢はないと思えるまで。インド人もびっくり!

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路地にあるので見落とし注意。狭い階段を頑張って登りましょう。

19時、カウンター席にその日のお客さんが勢ぞろいする。初対面ばかりだけど、これから一緒にトリップする仲間です。同じツアーに乗り合わせた乗客たちみたい。一蓮托生。

前菜からメインまでの4皿にペアリングした燗酒が4種出てきますが、別途ビール注文も可能。個人的にはお酒の量はペアリングでちょうどよかったかな。
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前菜。白子のアチャール、牡蠣のスパイスオイル漬け、フグのジンジャーフリット。(メニュー名はうろ覚えなのでご勘弁を)合わせるのは樽酒の燗。スパイスに負けないどころか、樽香で臭みを消して魚介の旨味を引き出すナイスアシスト。


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2皿目。白身魚にココナッツスパイスソースを合わせたものだったかな。ソースをたっぷり絡ませて一口食べた後、口の中を熟成酒で満たすと得も言われぬ恍惚。白身のまろやかな甘さとふわふわな食感が、ほわん、と包まれる。


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スペアリブ。この燗酒は「ロゼワインだと思って飲んでください」と言われる。酸味が強い個性的な熟成酒で、そのままでは個性が強すぎるんだけど、スペアリブとソースとともにいただくと、まぁ!絶妙なバランスで華やかな旨味がピリカピリララ。カウンターのお客さんたちも「!?」と衝撃の様子。マリアージュって、ワイン以外にも生まれるんですね!和洋折衷ならぬ和印折衷、ここに日印平和条約が締結されました。


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メインができるまでのおまけメニュー。特大しいたけを焼いてもらって、クミン塩で合えたもの。はー、美味しい。


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やってまいりました、ミールス。「この燗酒はモヒートだと思って飲んでください。ミールスはまずそのままで食べて、五味の特性を感じてください。単体では美味しいと思えなくても、ジャスミンライスや他の小皿と混ぜて味わうと変化します。そしてモヒートを飲むとまた違った味わいになるはずです。あなただけのバランスを探して、口中調味してください。」

五味とは、酸味、苦味、甘味、辛味、鹹味(塩味)の5種の味。そして「口中調味(こうちゅうちょうみ)」というパワーワード!食べること、味わうことだけに集中して…。


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見た目は「沼」なお行儀の悪い混ぜ混ぜミールスだけど、これが美味いんだ。私はラッサム多めでスパイシー&サワーな味わいが好み。そこにさっぱりモヒート(燗酒)を足すと、旨味がピュルピュル増してくる。合わせると、単体で食べる100倍美味しくなる。1×1=∞という方程式が生まれる店。


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見たことのない日本酒が並ぶ店内。たくさんの日本酒がある中、どうやってスパイスとのベストマッチを見つけ出すんだろうか。カウンターの裏では尋常じゃない数の試行錯誤があるに違いない。

 

こんなに五感をフルに活用する食事も珍しい。たった2時間でインド旅行をしてきた気分だ。食後はスパイス効果で身体がぽっかぽかになるし、胃腸が元気になるし良いことずくめ。次のコースも絶対行かなきゃ…と誓ったのでした。

 

閑話休題

外で食べるカレーは最高だけど、おうちカレーも大好き。コロナ禍、スパイスからカレーをつくることにハマった。当時は御徒町に住んでいたのでアメ横「大津屋商店」でスパイスを揃えて、エリックサウスのシェフが書いたレシピ本「だいたい15分! 本格インドカレー」をバイブルに。

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見たことない量のスパイス棚にクラクラ。店員さんに聞くとおすすめも教えてくれる。
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本を頼りに、必要なスパイスだけ購入。まずは15分で出来るという鯖カレーに挑戦した。
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合わせておいたスパイスと、みじん切りした玉ねぎとトマト缶をフライパンにぶち込んで炒める。
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ほんとに15分で出来た本格インドカレー。自宅でこのレベルが作れるんですね…。この時はバスマティライスが無かったので普通の白米で。


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その後、かっぱ橋でカレー皿を買いました。サフランライスも炊きました。形から入るタイプです。

 

今の会社に入社する時、一次面接の待ち時間で廊下に座りながら人事と雑談する機会があった。そこで何故か「美味しいカレーの作り方」について議論した。カレーに一家言ある方だったようで自信があるようだった。私もカレー好きの端くれとして「玉ねぎとにんにく、生姜はケチらず使わないと味がブレる。スパイスをテンパリングさせる油が大切だから、カロリーやコレステロールなんか忘れてドバっといこう」なんて話した。カレーの話ばかりしたせいで二人してお腹が空いた。面接は受かり、その後もとんとん拍子で運び、内定が出た。

「就活生の緊張をほぐすために雑談してくれたのかな」と思ったが、別にそうではなかったらしい。他の内定者に聞いたところ、別にカレーの話なんかしなかったらしい。なぜ私だけ…。よほどカレー好きに見えたのか?

入社後、その人事と再会してカレー仲間になった。社内ですれ違うたび、お互いに美味いと思うカレー屋を紹介する程度の仲だ。ある時、「なんで面接前にカレーの話したんでしたっけ」と聞いたら、「いや、お昼時だったので『お腹空きましたか?お昼に何食べたいですか』と聞いたら、カレーと言われたんだよ。カレー好きとしてはどこのカレーか気になるじゃん。で、自分でも作るって言うからレシピを教え合ったんだよ。長い人事人生でも、就活生とカレーの話をしたのはあれが最初だなぁ」と言われた。…私が食いしん坊なだけでした。

いずれにせよ、カレーが繋ぐ縁ってのも悪くない。今度「スパイスドランカーやぶや」を教えようと思う。それとも、コロナが収束したら誘ってみようかな。