盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

秘宝館ミュージアム「大道芸術館」に行く

10月頭、弁護士の知人からメッセージが入った。

「秘宝館ミュージアム向島にオープンするんだけど行きませんか?」

 

①秘宝館ではなく「秘宝館ミュージアム」?②なぜ向島の地に?③どうして貴方からその誘いが?もしかして隠れた秘宝館マニアだった? と3つの疑問が瞬時に浮かんだが、コンマ5秒で「ぜったい行きます」と返した。

こういう唐突なお誘いは大抵面白いことになる。乏しい人生経験ながら確信している。脊髄反射でノっていきたい。

 

向島(むこうじま)。

御徒町に住んでいた頃、地元台東区のおじちゃんたちがその地を「川向こう」と表現していたことが思い出させる。ちょっとバツが悪そうに。台東区墨田区の間には、余所者には計り知れないほど深くて長い隅田川が渡っているのだ。

 永井荷風の「墨東綺譚(ぼくとうきたん)」で知られる「墨東」は、隅田川の東側を指す。川を挟んだ西側(都心側)が浅草で、言問橋(ことといばし)を渡った東側がスカイツリーのある押上、向島などを含む墨東地域。江戸時代から花街として栄え、向島にはいまでも9軒の料亭が営業中で、70数名の芸者衆もいる。ちなみに、滝田ゆうの漫画「寺島町奇譚」の舞台・玉の井は「東向島」。かつては赤線地帯として盛況を博した。

 

そんな歴史ある花街・向島に「museum of roadside art 大道芸術館」が10月11日、公式オープンした。写真家・編集者…と括れないほど幅広い活動で知られる都築響一さんのコレクションを展示するミュージアムだ。

museum-of-roadside-art.com

 

都築さんは、確か2007年の横浜美術館での「GOTH展」で写真を展示されていて、渋谷のガングロギャルや原宿のロリータなんかを撮りまくっていた。写真自体も面白かったんだけど、なぜかナダールの肖像写真を思い出した。同時代・同じ場所に生きる人には共通するナニカがあって、たくさん集めて展示することでその特性が浮かんでくる。博物学のよう。やってることはアツイのに、どこかクールな視点を持っていてそこが魅力的な人だと思った。いつか話をしたい。

 

そんなこんなで、開館直後のミュージアムに行ってきましたよと。

押上駅から徒歩で10分ちょい。細くくねる道の向こうに館があった。遠目ではどこにあるか分からず焦ったが、入口付近に屋号がありほっとした。

お邪魔しまーすと入ると、出迎えてくれたのは巨大なオブジェ。面喰いつつスタッフさんに促されるまま、靴を脱ぎスリッパに履き替えて待ち合わせ場所の上階に。

「テレビでおなじみの秘宝館おじさん」って、昭和世代にはおなじみなんですか?うっすら「伊勢」「鳥羽」等の地名が見える。はるばる向島にようこそ。

階段を登る。3階建て構造で1階がエントランス・ショップ・VIPルーム、2階がバー・喫茶・ギャラリー、3階が展示室だった。後から聞くと元料亭だったそうだ。この狭い階段を和服の女性らや酔っぱらったオジサンたちが何度も行き来したんだろうな。

3階に到着すると、そこはSFエログロワールドだった。

3階にはすでに友人らがいた。よく見知った顔と、怪しく光る謎の機械群と裸のボインちゃんたち。婦人科っぽい検査台に載せられて足を開かされている人形や、その足の付け根にはエロマンガとAVでしか見たことのないウィンウィン動く装置があったり。

脳処理の限界を超えた情報に晒され、笑うしかなくなる。

「あっはっは、すごい空間ですね」

とりあえず写真に撮る。現代人の悪い癖だが、万が一数秒後に天変地異が訪れてもこの衝撃的な空間を思い出に遺しておきたい。

※行った際は写真OK、SNSへのアップOKでした。たくさん写真を撮りましたが、これから行く人の楽しみを奪わないよう、本記事への掲載は最低限に留めます。ぜひ現地でお楽しみください。要予約!

ミュージアムの目玉展示は「元祖国際秘宝館鳥羽館・SF未来館」(1981年~2000年)の展示物の一部。秘宝館の閉館に伴い、都築さんが購入して保管していた。これまで「第1回横浜トリエンナーレ」や国内外のギャラリーに出品してきたが、常設展示は初。必見です。

「あっ、三角木馬」

「日常会話で絶対出てこないよな、三角木馬…」

「展示物の状態がとてもよさそうです。大事に保管されていたんでしょうね」

「記念に撮りましょう」「背景が帝王切開って何なん」「マクベス気分です」

階段壁面には古今東西のバッド・アートが展示されている。ファイン・アートでもアウトサイダー・アートでもない、「他の美術館・ギャラリーでは日の目を見ることがない」作品たち。どれも面白く目をそらせない。さりげなく大竹伸朗の作品がありビックリ。この日は大竹展の帰りだったので思わぬシンクロだった。

人形やバッド・アートのモチーフの多くは女性。しばらく観ていると、際どい部分が見えそうで見えなくなっていたり、ぬいぐるみが置かれていることに気づく。

「あ、そのへんの公開のアドバイスを僕がしました」

ようやく秘宝館ミュージアムと弁護士との関係性がつながった。そんな仕事もあるのね…。というわけで、どのコーナーも楽しく魅せる工夫が施されているので安心してお運びください。

トイレも見逃せない。こちらにも大竹伸朗の作品が。

VIPルームの机の下にはラブドールがいた。

2階のバースペース「茶と酒 わかめ」にもお邪魔した。バーカウンターは往年のピンク映画のチラシをあしらい、その奥には数体のラブドールがこちらを見下ろしている。どれもオリエント工業のドール。聞いたら「新品」でした。当たり前か…。

原型師・荒木一成さんのコレクションの博多人形のコーナーもすごかった。そのままでもお土産として通じる出来ですが、どれも驚きの「隠し絵」「裏絵」が仕込まれています。人形をひっくり返すと✖✖が✖✖✖…!これぞ日本文化!思わず笑みがこぼれちゃいます。ぜひ現地でご案内いただいてください。

季の美ソーダをいただきました。おつまみを入れる袋がまた可愛い。中に四十八手の絵と川柳が入っています。

オリエント工業製・天才的発想のウォーターサーバー。後ろにまわると誰でも巨乳になれます。片乳を触るともう片方の乳首から水が出る仕組み。マジですごい。手触りも最高。衛生的にNGだと思いますが、牛乳かカルピスを入れて口で受けたいです。

バーのママさんのお話が面白く、展示品の解説から館の裏話まで何でも聞かせてくれました。みんなで性愛について語ったり、ラブドールを愛でたり、おおらかな空間。日常ではタブー視されがちな性も、この空間では素直に語れそう。この館自体が都築さんのコレクションを活用していることもあり、何かを収集し続けることの希少さ…執念の凄さも実感。モノが語るものは大きい。

 

読んでいた本、会田誠の「性と芸術」にも通ずるなぁ。

この本で特に心に残った部分は、日本は「クールジャパン」って売り出そうとしているけれど、それって「オナニージャパン」とも言えるんじゃないかって提言。秋葉原の駅前はエロゲーのパスターだらけだし、エロアニメやエロマンガ、同人誌等の創作物、ラブドールオナホールなんかのおひとりさま用性具、もはや「文化」としても扱われるコスプレも、ぜんぶオナニー(良い意味で。自分による自分のための創作)じゃん!って。オナニーだからこその熱量と独りよがりだからこそ、世界が注目するそうな。

大胆すぎる仮説だけど、大道芸術館の展示物が魅力的に見えるのは、コレクターである都築さんの審美眼の面白さは勿論、一つ一つの展示物自体が来館者の評価や文脈を必要としていないからなのかもしれないなぁ。所有者が「すげぇ!」「ウケる!」「エロい!」と思ったらそれでいい。「良かったら見せてあげようか?」みたいな余裕がある。秘宝を覗き見させてもらっているような気持ち。

 

帰りのタクシーで皆既月食が見えた。スカイツリーと並んだお月様は幻想的で、不思議な体験が続いているような。その勢いのままアメ横ハシゴして楽しく酔っ払いましたとさ。