盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

3年ぶりに制限解除のゴールデンウイーク、金沢・富山・長野をハシゴしてみた

NHKによると何の制限もかかってない大型連休は3年ぶりだそうだ。新幹線指定席の予約は去年の3.8倍。体感としてもみんなお出かけしているみたい。何年も我慢を強いられて行けなかった場所、会えなかった人がいる。そりゃ出かけるだろう。誰だってそーする。私もそーする。

ジョジョの奇妙な冒険Part4「ダイヤモンドは砕けない」に登場する虹村形兆の台詞。

 

ま、出かけるにも理由はあるわけで。私の場合、ほとんどのモチベーションは美術館か遊郭跡巡り、もしくはストリップ遠征なわけで。今回は同地域に行きたい美術館が3館溜まっていたので、いよいよもって我慢の限界だった。

 

祝「ジョジョ展・金沢」2年越しの開催実現!!!

www.hokkoku.co.jp

 

もはや説明の必要がない世界的名作「ジョジョの奇妙な冒険」の原画や新作大型絵画などがズラリと並ぶこちらの展覧会。巡回展となっていて、新国立美術館(2018年8月24日~10月1日)を皮切りに、これまで大阪文化館・天保山(2018年11月25日~2019年1月14日)、長崎県美術館(2020年1月25日~3月29日)で行われてきた。

私はものすごく熱心なジョジョファンというわけではなかったが、学生時代から単行本やジャンプ本誌を借りて授業中に読むなど連載をひと通り追いかけてはきていた。3~5部が特に好きで、7部も名作だと思う。近年、ルーヴル美術館での展示や岸辺露伴先生のドラマスピンオフなど新境地に挑戦しているのも好ましい。

新国立美術館。まだ事前予約制の展覧会は珍しい時期だった。撮影OKコーナーでは、ファンがここぞとばかりにジョジョ立ちを披露する。

長崎県美術館。東京・大阪に比べて空いており貸切状態で楽しめた。都合がついたので中学の同級生らと行った。

この時に買った長崎展限定グッズ(その後金沢展でも販売)のスマホケースは今も愛用している。この写真よりちょっと黒が薄くなった。

コロナ禍直前、ギリギリのタイミングで行けた最後の国内旅行となった。まだマスクも不要だった世界。長崎も久々に行きたいなぁ。

そして2年越しの金沢。ここまで来たらもう意地だ。展示構成は大きく変わらず、でもこの2年間で8部が完結したのでその部分の原画が追加されていた。

会場は金沢21世紀美術館の市民ギャラリーA。企画展で使われている部屋ではなく貸出用の空間だ。東京に比べるとあまりに狭い。というか21美は展示空間としては致命的に動線ゴニョニョ…なので、その辺はぶっちゃけあまり期待せず。「ちゃんと金沢の巡回を見届ける」ことが目的でした。

来たぜ金沢!いいね金沢!新幹線開通で便利になったわよね~~たぶん5年ぶりくらい。

展示室内は撮影NGとなっていた(狭いからね…)ので、入り口付近で恥も外聞もなく無理やりジョジョ立ち。この白壁は多くのヤングの撮影スポットとなっていた。プレビューデイに当選したので初日前に行けたんだが、案の定オペレーションはゴニョニョ…。展示内容は良かったので文句はないです。

21美のインスタスポットで、ヤングに負けずにパシャリ。最初の新国立美術館の時点ではニジュウナンサイだったのに、今や立派なアラサーになったよ。お一人様でもこうやって写真撮れるし、好きに旅行できるし、年取るのはいいもんだ。

物販会場は別の建物だった。21美の中でやるのはまぁ無理なので妥当。何万円ぶんもグッズを爆買いするファンばかりで、俺は経済をまわすぞッ、ジョジョ~!という感じ。

ジョジョ展行くんだ!」と周りに言うと「お前、前も行ってたろ…同じ展示を何回も観て楽しいの?」って思われがちなんですが、楽しーんだなこれが。

美術館の展示室ごとに展示環境が全く違う(面積、動線、天井高、照明や電源の位置とか)し、備品使いまわしというわけにはいかず、観ていると毎回何かしら新規で制作しているみたい。原画と原画の間の星型のシールとか、ちょっとしたキャプションとか、各会場限定原画の見せ方とか、創意工夫とジョジョ愛を感じられて面白いのです。なんてったってコロナ禍で延長したおかげで8部のラスボスの展示も増えたし。展示を実現してくれた関係者に感謝ですね。良いと感じた展示は全国巡回を追いかけたいね。

 

さ、打ち上げだー!地物が食べたかったのでこちらのカウンターで。お魚とれとれ、日本酒うまうまでとっても良かったのでまた行きたい…。

tabelog.com

「旅に出るのもひとり♪酒を飲むのもひとり♪」とブツブツ言いながら飲むよ。ホタルイカの石焼うまかった…白魚の踊り食いも(性的に)興奮した。ぴちぴち生きている白魚が口の中、胃の中で息絶える感覚がダイレクトに伝わるのよ。(サイコパス発言)

帰りに1軒バー寄ったけれど写真を撮り忘れたのでどこだったか…マティーニギムレットで〆ました。うまかった。

翌朝はのんびり起きて、とりあえず尾山神社にお参り。旅先の氏神様への挨拶は欠かさないのがマイルール。はじめまして、お世話になります、来させてもらいありがとうございます、旅の中でもいいご縁がありますように、と。

尾山神社の境内きれいだった。珍しい建築様式も見どころ。なぜかコロポックルになれた。幼少の頃、佐藤さとるコロポックル物語を読み憧れていたので夢が叶う。

翌朝のゴハンは、武士屋敷跡地あたりでたまたま見かけたお店のホットドッグにした。金沢ローカルのカレー風味キャベツが挟まれていておいしかった。

国立工芸館へ。東京・竹橋から移転してきた。竹橋時代もたまに行っていたので他人とは思えない。分かりやすくて、グレードの高そうな展示ケースが使われていて良い施設だった。

鈴木大拙館へ。谷口吉生ファン必見の施設。中の展示はもうちょいリニューアルしてもいいのではと思うけど、とにかく中庭の水紋とあずまやが禅的でいいんだよね~。新緑がキラキラ輝いていて癒された。五月みどり

中庭でしばし休憩。この日は夕方に富山で友人と落ち合うので、新幹線の時間を調べて移動に備えます。

近江町市場はチラ見するも人混みだったので退散。賑わってて良いこと。

それよりもこういうトタンに心惹かれてしまうのだ。

金沢駅で8番らーめん食べて、お土産物色してお世話になっている方々への郵送手配して、ジャストタイムで新幹線。あまり物欲がないのでもともとあまりお土産って買わないタチで、せいぜい帰りの電車の酒と肴と水があればいいくらいだったんですが、最近はできるだけ人に買うようにしている。都内にいるあの人たちに各地の味を楽しんでもらえたら、私が旅先で楽しくやってることを想像して祝福してくれたら、食卓での話題がひとつ増えたとしたら、そんな幸せなことってないね。

 

金沢から富山へは新幹線であっという間だった。着いて、トラムに乗ってホテルに荷物を置きに行く。前に来たのは5年前。富山県美術館がオープンして、開館記念展を観に来たのだ。もう5年か。色々あった。あの時はトラムにも乗らず市内を徒歩で踏破した。

先日観た映画「ちょっと思い出しただけ」が心の片隅に残っていて、ふとした瞬間に記憶のレイヤーを行き来することがある。思い出深い土地には情念が宿る。あの頃の私は確かにここに居たのだ。誰も知らなくていい物語。

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荷物を置いて、待ち合わせまで1時間弱あったので富山市ガラス美術館へ。隙間時間を見つけては美術館に行くタイプの人間。ここも建設当時はセンセーショナルだった。いつも良い企画展をやってくれている。図書館と美術館が融合すればもっと楽しそうだなと思うんだけど。

 

待ち合わせは居酒屋「どぶろく」。店内はCDやレコード、映画ポスターがたくさんで、趣味人であろう店長が素敵だった。何食べても美味しいし地酒もたくさん楽しめた。

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白エビの揚げたやつをチビチビやりながら昔話に華を咲かせよう。

待ち合わせの相手は、つくば時代に近所に住んでいて飲み友達だった「まーくん」とその奥様。まーくんとはもう10年以上の仲で、当時は仲間内で週3回くらい飲んでいた。彼は今年結婚しており、奥様と私は初対面だ。

私にとって彼は頼れるお兄ちゃんみたいなもんで、何でも相談していたしされていた。お互いにハナっから恋愛対象外だったこともあり、一度も色っぽい空気にならなかった。信頼できる男友達とは決して同衾しないのが私の数少ない美点だと誇っている。だってその方が長い人生かけて一緒に過ごせるんだもん。一度でも寝ちゃうとなかなかそうはいかない。(諸説あるが)

…ということを、開口一番に奥様に宣言。先方は当然折込済みだったようだが爆笑された。おかげで?彼女とはすっかり打ち解けて、今度は2人で飲みに行こう!とまで言ってくれて嬉しかったなぁ。好きな人の、好きな人と仲良くなるのが好きだ。

まだまだ飲むぞー!とSOGAWA BACEに移動。最近オープンしたらしいオサレな大人向け集合店舗。なかなか良い店が集まっていてよかった。久々に日本酒を水のように飲んだ。これは盛れる写真アプリを駆使して田中みな実ちゃんに似せられる角度を研究している酔っ払いの我々。もちろん無謀だった。

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彼らは車だったので(まーくんが運転手、もちろんノンアル)真夜中になる前に解散。またすぐ飲もう!と奥様と熱い抱擁を交わし、ホテルに向かった。夜風が心地いい。いい夜だ。あんだけ日本酒を浴びたのに、最後に一人で〆たい気分だな。いいことがあった時はひとりバーカウンターで噛み締めるに限る。

 

ホテルの裏にあった「EDEN」というバーに寄ってみた。ネットには情報ないようですが、気のいい地元人が集まる大変治安のいい店でした。また行きたい。つくば時代によく飲んでいたメイカーズマークをロックで3杯飲んだ。

 

どこにだって行ける、いつだって行ける。行先も風任せ。何もしなくたっていい。自由なんて言葉で片付けたくないけれど、そういう心の有り様を思い出せるのが旅の醍醐味だ。気の向くまま盛り場を放浪して、たくさんの出会いと別れを繰り返せたらいい。花に嵐のたとえもあるさ、さよならだけが人生だ。

 

よく寝た。旅の最終日は富山のホテルで若干のけだるさ(二日酔いまでではない)から始めよう。洗面所の蛇口を捻って、グラスに水を並々入れて飲む。一気に2杯。水道の水が美味しい地域は素敵だ。

熱いシャワーを浴びて覚醒。今日は旅の仕上げ、富山県美術館と長野県立美術館に同日に行っちゃおうという趣向。あぁ本当、一人だからこそできる無茶なスケジュール。こんな旅がしたかったんだ、欲望に身を任せた行き当たりばったりワガママ旅。

 

とりあえず胃に何か入れよう、腹が減っては戦はできぬと近くのデパートのレストランフロアに入っていた老舗っぽい支那そば屋へ。

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着丼。中華そばってこういうのがいいんだよ。透き通ってて、優しくて、香り高くて。何の気なしに入った割に好みすぎて驚いちゃった。富山ブラックなんぞより、こっちのが断然富山らしい気がする。

 

元気が出たので、バスに乗って富山県美術館へ。開館5周年記念展で蜷川実花の個展をやっていた。

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蜷川実花は相変わらず蜷川実花だねという程度の感想しかなく、それこそ10年前にどこかで見た作品に再会して懐かしく思ったり。

全室撮影OKでSNS投稿推奨されていたが、思ったよりセルフィーする人が少なかった。東京都現代美術館でこないだやっていたユージーン・スタジオ展はほとんどの若者が写真撮っていたぞ。何でだろう。Z世代の感性ってやっぱり違う。

 

企画展はそこそこに、コレクション展を楽しむ。富山県美術館はなんといってもコレクションが素晴らしい。きちんと文脈をつくり、いい作家のいい作品をポイント抑えて見せていた。

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ここで働く学芸員さんは楽しいだろうなぁ、といちおう近現代美術を専門にしていた私は羨む。自分だったらどんな切り口でコレクションを読み解こうかとしばし思案。

 

バスに乗って富山駅に戻る。次の新幹線の時間まで10分、駅ナカで開催されていた古本市を流す。軽く眺め見のつもりだったのに古い映画ポスターを販売する店舗に惹かれて1枚買い求めてしまった。だって好きな作品なんだもん…。

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インテリアちょっぴりこだわって部屋の計画立てているのに、こういうアクの強いポスターが1枚あるだけでいっぺんに雰囲気変えるよね。うう、誰か連れ込んだ時にこじらせサブカル女(笑)だと思われてしまう。映画や美術はメインカルチャーだと断じて譲らないぞ。

仕方ないので物置兼趣味部屋として使っているサービスルームに貼るか。業務用ルームランナーとアカデミックとエロで固められた本棚のある部屋に。…なんだか、メインのダイニングルームええかっこしいの外面、趣味部屋=真実の姿として分離してきており、連れ込む人がドン引かないかと懸念している。ま、いいか。

 

そんなこんなで長野。道中、富山駅で買った鱒寿司白海老鮨を貪る。効率化のため、移動時間が食事時間です。むちゃむちゃ美味かった。

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長野駅に着いて、本日ラストの霧の彫刻ショーの時間が迫っていたのでタクる。ギリギリ間に合い、本願をひとつ遂げた。

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長野県立美術館、ちょっと前に結構頻繁に来ていたのでリニューアルした姿を拝めて本当に嬉しかった。きれいになったねぇ。

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企画展はマン・レイだった。マン・レイ!高校生の時にちょっと良いなと思って写真集を眺めていたことを思い出す。その時々に付き合う女性がミューズとなるアーティストの1人。

東山魁夷館への渡り廊下が明るく開放的で良い。以前はあちら側へ行くモチベーションがあまり無かったので、リニューアルで格段に変わったね。

東山魁夷は、いわゆる彼っぽい作風の代表作も勿論良いんだけど、それよりはラフに旅先をスケッチしたものが好きだ。上手いなぁ…。構図にスキがないんだよなぁ。

 

館内ぐるぐる回り、17時の閉館が近づいてきたので退散。17時までに善光寺さんに入らなければ。

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お久しぶりですとご挨拶。色々変わったけれど元気でやっています。これからも頑張ります。私に関わるすべての人が健康で幸せでありますようにと願掛けをした。

 

定番長野土産の唐辛子をまとめ買い。王道だけど、今年限定のご開帳デザインなのでちょっとレア。

 

ん、よし、帰ろう。バスで長野駅に向かい、じきに出発する新幹線を狙う。これを逃したら結構待つからね。旅の終わりは少し切ない。車内に乗り込み、自由席の空席を探す。さすが連休なので結構満席だった。お、あそこ空いてる。いいですか?ありがとうございますと座る。

窓際席には若い男性、通路側席には女性が座っていた。真ん中が開いていたので座らせてもらった。女性はスマホをいじっており、男性は単行本を読んでいた。

若いコが本読んでるっていいね。私は電車内で本読むのが好きなので余計にそう思うんだろうけど、今は老若男女問わずスマホにかかりきりなので活字を読む人が滅法少なくて世を憂いていたので余計心に留まった。お互い楽しい読書時間を、と思い私も本のページをめくる。今読んでいるのはアシュリー・ミアーズの「VIP―グローバル・パーティーサーキットの社会学」。

元モデルで社会学の教授の著書が、ニューヨークのナイト・クラブ界隈に潜入し、「モデルとボトル」ーきれいで若い女の子たちを囲み夜ごとシャンパンを空けまくる富裕層たちの生態と経済について解き明かした画期的な研究書だ。

非常にスリリングで面白いし、書籍代(約4000円)では決して体験できない現地の空気感やゴージャスな世界に触れられるのが魅力だ。なんか世の中不景気でクサクサしてるので、こういう時は海外の景気良い本を読むに限る。

 

にやにやしながらページを繰っていたら、窓際の男の子が声をかけてきた。

「それ、何読んでるんですか?」

本の内容をかいつまんで説明した。

「えぇ、すごい内容ですね。そんな本初めて知りました」

彼の読んでいる本のタイトルも教えてもらった。ユヴァル・ノア・ハラリの文庫本だった。

「あー、『サピエンス全史』の。それ読んでないなぁ、面白い?なら買おう。買った」とAmazonの注文画面を見せた。

「えぇ…社会人の経済力エグい」

「ふふ、大人になると好きなだけ本を買えるんだよ」

嘘です。月に5万円までと決めています。今の所たまにしか超えません。夢は三省堂書店で値段を見ずに好きなだけ本を買うことです。買ってないけど宝くじ当たらないかなぁ。

ともかく、話しかけてきた彼と少し会話をした。あれよあれよと彼の個人情報を抜き、〇〇県出身の19歳で〇応〇塾大学の新一年生で、〇〇駅に住んでいて彼女募集中というささやかなプロフィールをつかんだ。

「あんまり東京とか横浜知らない?案内しようか、ついでに美学と美術史なら少しくらい話せるよ」と甘言を弄し、次のアポイントまで取り付けた。

私は年下は守備範囲外だけど、酒の飲み方をOJTして若者の青春を応援することくらいはできる。私がかつて諸先輩方からさんざん受けてきたように。見どころのある青年がさらにちょっと洗練されて、少し違った未来を選ぶ後押しができたらいいなと思った。これは年長者のエゴだ。今のところ子を設ける予定もない私に、人類のためにできることはこのくらいしかない。

 

大宮、上野、東京。隣り合った人との話が弾むと新幹線の車内の時間は短く感じる。じゃあね、またねと別れ、私は横浜に帰る。

「変な出会いだったなぁ、でもちょっと楽しかったなぁ、尾山神社の采配かな?」とこの些細な出来事と旅の結末を誰かに伝えたいと思った。

私が好きな人たちはきっと、ちょっと面白がって聞いてくれるだろう。あぁ、あいつまたバカやってる。でも旅に出ないとそんな経験できないよね、って言ってくれるはずだ。

旅って何だろう。何のためにしているんだろう。そんなこと分かっていたらしないんだろうけど、分からないから何度も世界に足を向けてきた。でもそれもいつか終わる。でも何度も繰り返して始めてきた。

コロナ禍で移動と交流が制限されていたけれど、それが解除された瞬間人々は旅に出た。結局、人間と旅の関係性はその結果論に尽きるのかもしれない。

「家に居続けられないから、旅に出るのさ」

他者や異質なものとの接触があるからこそ自分自身を初めて認識することができる。氷を触って初めて、自分に体温があると実感できるように。他人の身体に触れて自分の輪郭を意識するように。旅なんてのはそんなもんだ。私たちは結局、家に帰るために、わざわざ遠回りをしているだけなのかもしれないね。

 

人が旅をするのは到着するためではなく、旅をするためである – ゲーテ

 

旅はどんなに私に生々としたもの、新しいもの、自由なもの、まことなものを与えたであろうか。旅に出さえすると私はいつも本当の私となった – 田山花袋

 

「そのうち」なんて当てにならないな。今がその時さ。- スナフキン

 

1人旅をしているときには、好きな人のことや、残してきた人達のことばかり不思議に思い出すものだ – リチャード・ホームズ

 

目[mé]の《Life Scaper》を思い切って購入した話

でかい買い物をした。買うまでに、私にしては相当悩んだ。まる一日。

それに出会った時、値段も考えずに「これ欲しい」と思った。「生涯、生きていく道しるべが一つできるかもしれない」と直感した。お値段を聞いて躊躇した。年収の〇分の1、お家賃の〇か月分…!いやしかし、貯金でどうにかなるのでは。最悪分割で…。そうシミュレーションした時点で心は決まっているんだけど、理性がブレーキをかける。

「〇万円あれば他にもっと有効活用できるでしょ、旅行とか習い事とか。いったい現代アートが何の役に立つの?」と。

 

そう、現代アートを買ってしまいました。大好きなアーティストの、初めてのギャラリー販売作品を。たぶん、一生に一度の買い物。

そのアーティストの名前は「目[mé]」。少しでもアートに触れたことある人は名前くらい知っているでしょう。ここ数年精力的に活動しているし、注目度も高い現代アートチームです。2020東京オリンピックの関連文化プログラムで、代々木公園に巨大な顔を飛ばして多くの東京都民に衝撃を与え、SNSで「首吊り気球現る」とバズったことでも知られています。

www.tokyoartbeat.com

 

私が買ってしまったアートに出会ったのは、「まさゆめ」の直前。目[mé]の新作個展「ただの世界」が上野のギャラリーで行われると知り、運よく予約できて訪れた時。

www.scaithebathhouse.com


この展示は写真NGだし、文章で書いても大事なことは何も伝えられない(目の作品は大抵そうなので面白い)ので詳細は省く。行けた人は超ラッキー。友達になろう。

んで、私が購入したのはこの個展で発表された《Life Scaper》という作品です。

《Life Scaper》は、まず希望者に向けてヒアリング調査を実施し、その後、目[mé] と契約を交わすことによって所有できる作品です。所有者は、通勤途中や散歩している公園など人生のどこかで、いくつかの事例写真《Reference Scaper》が示すような、儚さや滑稽さ、美しさが伴う光景に遭遇する可能性を権利として得ます。しかし、この《Life Scaper》の実施やその実態は誰にも明かされることがないため、場合によっては所有者が気づかぬうちに実施されていることや、或いは真相自体が疑わしいままその権利を持つことになります。つまり所有者に、”Scaper”との遭遇への期待心と同時に、シュレディンガーの猫のような虚と実の両義性の中に身を置くことを余儀なくする作品です。

 

要するに、目[mé]が私の生活領域にいつの間にか侵入し、何かしでかしているかもしれないということだ。いつ行われるか、どこで行われるか、そもそも本当に行うのかは誰も分からない。

契約にあたりプロフィールとして、自宅住所、職場住所、普段立ち寄る場所や行きつけの店、詳細な行動パターン、性格的特性(物事の変化に気づきやすいタイプかどうかとか)、趣味、ありとあらゆる個人情報を何枚も提出する必要がある。目[mé]はそれを見て、作品を作るらしい。

 

「えっ、集団ストーカー?」

いやいやアートです。虚と実のあわいを楽しめる、心に余裕のある大人が自分の生活を差し出して事象に巻き込まれる高等遊戯。ええ、まともな社会人は巻き込まれたくないと思います。でも私は、目[mé]がこれまで作り出してきた作品が本当に大好きで、目[mé]の作品を鑑賞した日は魔法にかけられたようにすべてがきらめいて見えて、その力に何度も救われてきた。

 

初めて目[mé]を知ったのは2014年。宇都宮美術館で行われた「おじさんの顔が空に浮かぶ日」という作品を知り、なんじゃそりゃあと仰天した。栃木の街に浮かぶ知らないおじさん。シュールすぎた。マグリットの絵みたいだ。強烈にインパクトがあった。

colocal.jp

その後、ちょいちょい各所で観るようになった。決定的だったのはさいたまトリエンナーレ2016の《Elemental Detection》。彼らはさいたまの岩槻の野原に、ガラスのような素材で架空の池を制作した。沼にしか見えず、でも足を踏み入れるとしっかりとした感触があって、まるで水上を歩いているみたいだった。なんじゃこりゃあと混乱した。

saitamatriennale.jp

mouthplustwo.me

 

続いて、2016年に別府市役所で行われた「目 in Beppu」。彼らは別府市役所の窓の外に白く霧がかった世界を作り出し、庁舎内にもさまざまな仕掛けを施した。別府市民の、私たちの日常がゆっくり変容していく感覚。市庁舎に何気なく置いてある物体や市役所にいる全ての人に対し違和感を感じ始め、鑑賞が終わった後も作品が続いているかのような錯覚を覚えた。

inbeppu.com

 

そしてこの「違和感を作り出す」手法が極まったのが、2019年に千葉市美術館で行われた個展「非常にはっきりとわからない」。最高だった。内容ははろるどさんのブログ(下記リンク2つ目)で少し明かされているのでぜひ。マジではっきりとわからなかった。

www.ccma-net.jp

blog.goo.ne.jp

 

この千葉市美術館の帰り道、千葉駅に向かう道中、目に映る光景すべてがアート空間に見えた。

「もしかして、道に落ちているあの赤い手袋、目[mé]の仕業では?」

「そこでタバコ休憩している作業員のおじさんたち、目[mé]の仕込みでは?」

「あのビルの看板、ネオン管が一部切れて変な感じになってるのは、目[mé]の作品?」

「千葉駅ナカで売ってるコッペパン、ピーナッツバターが売り切れていたのは目[mé]が買い占めたから?」

こんな感じで。気づくか気づかないかは、貴方次第と試されているように。

 

そして、コロナ禍にさきたま古墳で行われた「埼玉古墳群 抽象景色」。これも運よく予約できた。珍しく公式動画があって、全部写っている。行った人以外、実際には何が起きているか分からないけれど。

saitamabunkazai.wixsite.com

www.youtube.com

 

私が参加したのは「引きの視点」。特別仕様車(4t車)に搭乗し、離れた視点から埼玉古墳群と周辺の風景を眺める。

古墳の美しさよ。それ自体もミステリアスなのに、車で近くの民家を通りがかると手を振られたり、何かが起きたりする。何が仕込みで、何が偶然なのかは誰も分からない。

作品鑑賞後、目[mé]の皆様と挨拶することができた。すごく素敵で真っすぐな方たちでますますファンになった。「大好きです。これからも展示観に行きます。できるだけ全部行きます」と伝えたら喜んでくれた。応援しています。

鑑賞後は古墳で遊んだ。目[mé]を観た後っていつも感性が瑞々しく生まれ変わった気持ちになる。もともと子どもみたいなことやらかすけれど、ますます。

 

そして迎えたのが、2021年「ただの世界」。

通りの画像のようです

写真の説明はありません。

テキストの画像のようです

目[mé]はこれまで作品を一般販売したことがなく(販売しようがないので)、これからもするかは分からない。最初で最後の機会かもしれない。

もう運命だなと。目[mé]の虜の一人である私が買わねば誰が買うんだ。

 

・・・いや、嘘です。カッコつけました。最初は日和りました。

購入にあたり、個人と団体が選べたので、何人か集めて買うあくどい方法を思いついたのだ。ま、団体と言っても普通は法人名義とかなんだろうけど、例えば10人で出資して買ったらどうなるのかなという興味もあったのです…。でも1日考えて、自力での購入に踏み切りました。やっぱ全部自分で身銭切って体験し尽くしたいじゃん。

 

「ただの世界」鑑賞後、Facebookで呟いた一言。共同購入という手を逡巡するも、すぐに個人購入に踏み切った様子が分かりますね。

 

決断してすぐにギャラリーにメールして購入意思を伝えた。んで諸々手続きしたり、振り込んだり(実行ボタン押すときはやっぱりちょっと躊躇したよ)して、作品が届きました。

ギャラリーの方が設置にいらしてくれた。この作品を中心に置くためにインテリアの配置なんかも工夫した。

ババーン!こちらが私の《Life Scaper》です!ギャー格好イイ!左下に契約書が、右下に購入を証明するカードが、そして上部には謎の作品が。ロット100まであり、1点1点作品の中身は違うそうです。人によっては石とか葉っぱが入っているそうです。私のは絵の具?が塗られた銅板のようです。ワビサビ感じられて好みです。

 

上部で説明した通り、この額だけが作品ではないので、これからが本番です。私はこの瞬間からLife Scaperになりました。

 

これも面白いな~と思うんだけど、普通に社会人として生きていて、別の「役割」を持つことってほとんどないと思う。ある会社に勤めている会社員、どこどこ大学に通う大学生、どこかのサークルに入っている参加者とか、「所属」はあるけどさ。あと役職も別で。

結婚すれば「妻/夫」になったり、子どもを持てば「母親/父親」という役割になったりするけれど、「あぁ、自分は〇〇なんだなぁ(〇〇には任意の言葉を入れる)」と思うことってほとんどない。

 

でも私は、自分の意志でLife Scaperになることが出来た。日常に潜む瞬間を追いかけて、気づいて、つかまえていくのが私の役割だ。

あぁ、外出することがますます楽しくなる。だってこの瞬間にも目[mé]が何か仕掛けているかもしれなんだから。家に引きこもっていては気づけない。もしかしてあれは、あの時の出会いは、この巡り合わせは、ひょっとして…?

 

Life Scaperであることを、「目に映るすべてのことはメッセージ(by荒井由実)」状態と呼びたい。目を皿にして、鵜の目鷹の目で、良い目を狙っている。目[mé]だけにね。

 

ちなみに、あまりに疑心暗鬼になりすぎてギブしたくなったら途中解約することもできるらしい。今のところ大丈夫。むしろ良いことしかない。買ってよかったと思うし、人生変わったと思っている。

Life Scaper購入後、美術手帖の表紙を飾っていてびっくりした。他のLife Scaperの作品も知りたいな、オフ会したいぞよ。

これまで頑なに作品を販売しなかった目[mé]がなんで今販売に踏み切ったのかは分からない。でも、コロナ禍でおうち時間が増えて外出が億劫になったアートファンへの、目[mé]からの挑戦/贈り物みたいなものかもしれない、とも考えた。

この作品に対して「…アートやるやる詐欺じゃない?お金だけ受け取って実際は何もしないのかもよ」という感想を持つ人もいるかもしれません。

そんな野暮なこと言いなさんな。購入者はその可能性も含めて納得して契約しているし、立派な額装作品が届いたし、作品は概念として成立しているからいいんですよ。私の払った代金が、彼らの次の作品制作に活かされていたらなおのこと嬉しい。アーティストの作品を直接買って応援できることが出来るなんてアートファン冥利に尽きる。

 

そんな彼らは今、十和田で新作展示をしているらしい。

towadaartcenter.com

万難排して今月観に行こうと思う。その隙に自宅周辺で何かが起こっていないことを祈るのみ。いやいや、もしかして、でもひょっとして?

変態礼賛映画「TITANE/チタン」を観た

「私は今、一体何を観ているんだ…」

横浜ブルクの空いたレイトショーで唖然としながら、時にスプラッタなシーンから目を逸らし、ブラックユーモアの効いたシーンでクスリと笑い、音楽と光と女体に興奮し、ラストには何故か一粒の涙を零した。何から何まで理解が追い付かない。考えるな、感じろ。ジャッキーの言葉を唱える。

2022年の人類にはまだちょっと早いんじゃないかな、この映画。でもあと数年したらすごく評価される気がする予感がある。

映画『TITANE チタン』公式サイト

 

映画「TITANE/チタン」。ポスターがいかしてて気になっていた。それで調べたら、ロリータ・カニバリズム青春映画「RAW 少女のめざめ」で鮮烈なデビューを飾ったフランスのジュリア・デュクルノー監督の長編第2作だと言うじゃない。生半可な気持ちで挑めないけれど、観なきゃいけないやつじゃん。

 

gaga.ne.jp

 

完全にシラフだと勇気が出なかったので、野毛で1杯引っかけてから出陣。これは良い戦略だった。平日の夜なんかに、ちょっとお酒入れて勢いで観た方がスっと楽しめるタイプの映画です。間違っても休日の午前中に、ファミリーで賑わうイオンシネマとかで観てはいけません。

 

この映画は、幼い頃の交通事故により頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれた女性・アレクシア(アガト・ルセル)をめぐる奇想天外な物語。アレクシアは車や金属にしか性的に興奮しないメカノフィリアなクィア。いわゆる性的倒錯者。

冒頭、車とワンナイト・ラヴして身ごもってしまうんだけど、衝動的に殺人を犯してしまう凶悪殺人犯でもあることが発覚する。うん、意味が分からないと思うんだけどそういうストーリーです。

君は本物のカーセックスを目撃したことがあるか?この映画で観ることができます。私はこの映画で初めて本物のカーセックス(物理)を観ました。

 

ちなみにアレクシアはおそらくディスレクシア失語症)でもあり、劇中ほとんど喋らない。ので、ストーリーは映像から読み取る必要がある。昨今、言葉で説明しがちな映画が多い中、今映画観てる~!って多幸感あってこの演出は好きだな。あと音楽の選曲がいちいちクールで痺れる。どことなくストリップ的でもある。肉体を愛することと拒絶することは矛盾しない。

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あと肉体の痛みに関する映像が多くて、そのへん実はデリケートなわたくしは最初、金属の棒を耳に突っ込んだり頬っぺたに突き刺したりするシーンで怖がっていたんだけど、慣れって恐ろしいもので、最終的には「あっ、人間の乳首ってあんなに伸びるんだ・・・!」と冷静に観察できるまでになりました。

 

万人に薦められるどころか、100人中何人がこの映画を受け入れられるか未知数。だけど、私は観て良かった。もしかしたら大多数は嫌悪を示すかもしれないけれど、結構な人の心を揺さぶり、少しの人を救うかもしれない。

人間の生まれ直し(精神のスクラップ&ビルド)の話でもあり、女性の受難の話でもあり(出産はホラーだよね)、男性の生きづらさの話でもあり(打倒マスキュリン)、生と性と死(エロスとタナトス)の話でもある。そして家族と愛(とは何か?)の物語。寓話と言っていいでしょう。

映像や手法は実験的だけど、テーマ自体は実に普遍的。エロティシズムとダイバーシティがハードシェイクされて渾然一体となっていた。めちゃくちゃ個性的で度数の強さが際立った、でも意外と爽やかな後味を残すカクテル。ごちそうさまでした。

確かにパルムドールらしい映画かもしれないね。過激な「シェイプ・オブ・ウォーター」とも言えるかも。役者陣もみんなよかった。

 

ジュリア・デュクルノ監督の言葉がすごく良いので、いくつか引用。

「私の映画はすべて変態(transformation)についての映画です。そして、私の映画はすべて脱皮することについてを描いています」

「私にとって、身体とはその人の人間性を纏め上げた〈本〉のようなものだと思っています。その人自身の歴史や弱点が読み取れる」

パルムドール受賞作『TITANE/チタン』で世界を震撼!ジュリア・デュクルノー監督に独占インタビュー|カルチャー|ELLE[エル デジタル]

 

主演女優 アガト・ルセルの言葉も良い。

「この映画は、あなたがどこの出身であろうと、全く父親から愛を受けなかろうと、どれほど母親に嫌われようとも、そんな生い立ちに関係なく、あなたはそれを克服し、愛し方を学ぶことができるということを示しています」

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こういう力強いメッセージを放ち、世界をちょっとずつ変えてくれる人たちがいることに感謝しなくちゃいけないな。身を削って、肉を切らせて、骨を断つ。

 

フランスの哲学者でフェミニズムの先駆者シモーヌ・ド・ボーヴォワールはこう言った。

「人は女に生まれるのではない、女になるのだ」

 

世間一般の常識なんて、社会的に作られた約束事に過ぎない。自分の欲望や生き方は自分で決めろ、曝け出せ。すべてぶち壊してゼロから始めてみろ。私はこの映画からこんな激励を受け取りました。何かしらに抑圧されているイイ子ちゃんは、一度このぶっ飛んだ映画観て理性を吹き飛ばすのもいいかも。・・・その後の責任は取れないけどね。

春の夜に想う「あの日」のこと

丘の中腹、人っこひとりいない住宅街をずんずん歩く。いい感じにお酒が回った身体がじわり汗ばむ。昼間は初夏を感じる陽気だった。21時過ぎでも気温は下がり過ぎず、風もない夜。マスクをずらして胸いっぱいに空気を吸い込むと、鼻腔に甘い匂いが漂う。春の夜の匂いだ。土と緑と、薄い桃色の花々の香り。もうここまで来ていたんだね、春。

長居していた冬の気配が無くなる心細さとそわそわ感。お帰り三角また来て四角。脳裏に蘇るのは大学新入生時代の真っ暗な帰り道。灯りの乏しい森の中、毎晩の新入生歓迎会の宴を終えてえっさほいさ自転車漕いで宿舎まで帰った。春の植物は夜に濃密な存在感を漂わせる。満開の梅、早咲きの桜、圧倒の白木蓮ボッティチェリが描いた「プリマヴェーラ」の絵を連想させる。本物を観に、ウフィツィ美術館へ足を運んだのは、忘れもしない11年前の春だった。

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2011年3月頭から中旬にかけて、私はイタリアを歩いていた。2011年3月11日はフィレンツェの教会を巡っていたのではなかったか。あの日も今日と同じ金曜日だった。ベルニーニの素晴らしい彫刻たちは教会や美術館の建築と渾然一体となっているので、今後も来日することはないだろう、そんなことを考えていた気がする。

「あの日」どこで何をしていたか、互いのエピソードを語りあう機会がたまに訪れる。日本人なら、特に東日本在住の成人の多くは、帰宅困難者となったり呆然とテレビやラジオの情報をひたすら受信していたそうだ。帰国は3月14日頃だった。ローマの空港から成田空港までの移動にかけて、日本国内で何が起こったか断片的に情報が入ってきた。欠落してしまった数日間の共通体験を、誰かの言葉を通して想像した。

成田空港から自宅のあるつくばまでは直通のバスが変わらずに出ていた。帰国数日後は電車やバスの運行が滞ったので、今思うと本当にギリギリのタイミングだった。昔から悪運が強い。バスの車窓から見た街は静かだった。

自宅に帰り、部屋のドアを開けた。覚悟はしていたが中々の惨状が広がっている。本棚の本が部屋の対角線にかけて散らばっていた。割れたガラス、落ちたカレンダー、傾いたテレビ、居場所を失ったモノたち。

命を失う時は、こんな風に、本人が気づかないうちに物事が終わっていくんだろうと思った。結果としての事象だけがこの世に残る。お葬式が遺された人たちのために存在するように。

 

コートを脱ぐのも忘れてテレビをつけてしばし呆然と佇んでいると、知り合いが部屋に入ってきた。数ヶ月前に別れた元恋人で、当時は友達に戻っていた。私が今日帰国だと知っていて、状況を報告しがてら救助しに、流山から電車に乗ってわざわざつくばに足を運んでくれたのだ。とても驚いた。

「どうせ携帯も見ないだろうから」と前連絡もなかった。とりあえず日本のご飯を食え、とコンビニのおにぎりとお茶をもらった。胃に何か入れると急速に落ち着いた。食べるという行為は未来のための行動だなと思った。困った時ほどちゃんと食事を摂ることが大切だな、それと孤立しない・させないことが大事、これは人生の指針としよう…それさえ守ればどんな時も生きていける気がする、そんなことを考えていた。持つべきものは出来た友人。自分の人生に何か価値があるとすれば、結局のところ人との繋がりなんだろうな。

 

そして、11年後の春の夜。この夜。夜中にふと目覚めると私は布団の隅に追いやられており、隣に枕大の猫が寝ていた。その猫を枕に、ひと回り小さい猫も寝ていた。LサイズとMサイズの生命がすやすや寝ている。罪のない光景に愛しさが込み上げる。生類やさしみの令を発令したい。

何気ない日常が一番大切で、これといった問題のない健康は何物にも代え難い。風邪で鼻が詰まった時に今まで呼吸をしてきたことを実感するように、歳を数えた時に肉体に積み重なった歴史を想うように、大好きだった人を忘れた後に思い出すように。すべては喪ってから気づくのだ。

 

私たちの歴史を変えるもの、それは戦争と災害と病。その全てが降り掛かっている現世のグロテスクさに時折クラクラする。いつの世も平和がいちばん尊くって有難い。せめて自分の心の中だけでもラブ・アンド・ピースであろう。今できることを一所懸命にやるしかないね。いのちだいじに、ひとにやさしく。

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「ハウス・オブ・グッチ」と「フレンチ・ディスパッチ」を観る

時間が進むのが遅いんだか早いんだか。友達とLINEしてて「最後に会ったのが1年前…いや2年前だっけ?」「最初の緊急事態宣言が明けてからだからァ、2020年の夏くらい?」「そっか、コロナ禍になってもうすぐ3年か」と、時の流れをグワァっと感じることがしばしば。

ま、3年経てば誰しも色々ある。家を変えたり、土地を変えたり、職を変えたり、名字を変えたり、くっついたり、離れたり。2019年の世界が遠く感じる。緊急事態やまん延防止が長すぎて常態化している。東京2020があったのは2021年なのも混乱の種。とはいえ人間の適応力ってスゴイもので、この状況で出来ることを探して頑張るわけで。

映画監督たちも頑張っている。毎月のよーに面白い映画がたくさん生まれていて、追いかけていたらいつのまにか1年が終わりそうだ。

まずは先週観た「ハウス・オブ・グッチ」。「ブレードランナー」「ハンニバル」「オデッセイ」などを監督したリドリー・スコット御大の新作です。

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本作は、誰もが知る世界屈指のラグジュアリーブランド GUCCI の内幕にスポットを当て、グッチ家の闇を描く。

感想を一言で言えば「超~薄めた『ゴッド・ファーザー』」。カクテルのゴッド・ファーザーは、ウイスキー45mlとアマレット15mlを、氷を入れたオールド・ファッションド・グラスに入れてステアするんだけど、それを大ジョッキで作って炭酸水アップしたような味わいです。ハイボールもどき!まずくはない、決してまずくはないんだけど…というのが正直な気持ちです。

あ、でも面白いよ!長いけど。

キャストには、一族の崩壊を招くファム・ファタールのヒロイン役にレディー・ガガ。その夫となるグッチ家の御曹司役にアダム・ドライバー。その叔父役でキーパーソンを演じるのはアル・パチーノ。超豪華俳優陣を飾るのはやっぱり超豪華なヴィンテージ・ファッション!

ヴィンテージセリーヌの豹柄ドレス、ジミーチュウのシューズ、マックスマーラのキャメルコート、ディオールのサングラス、エルメスのスカーフ。そして、グッチのヴィンテージ・スーツ。ファッションを目当てに見てもおつりが来るくらい麗しかった。

映画『House of Gucci』の陰にある、グッチ一族の真実の物語|レディー・ガガ主演

そして、イタリアの血を引くガガ様の演技力がすごい!一歩間違えたら「大阪のおばちゃん」になりそうな迫力&厚かましさなのに、ギリギリのところで可憐さとセクシーさを持ち合わせる魅力といったら。アダム・ドライバーと初めて会うパーティー会場で、獲物(=うぶな坊ちゃん)を見つけた時のガガ様の目力は肉食獣のソレだった。作中でガガ様はマティーニ飲みまくってたのでお酒が飲みたくなりました。

まー、しかし、グッチ家崩壊の物語なので最後は物悲しいね。ネタバレになるので詳述しませんが「事実は小説より奇なり」としか言いようがない。今のGUCCIにはグッチ家の末裔が存在しないことがすべて。

鑑賞前は、てっきりGUCCIのプロモーション要素があると思っていたので、「ウフフ…GUCCI欲しくなっちゃったりするかなぁ」なんて思っていたのに、観終わったらトム・フォード買おう」と別ブランドの評価が上がってしまった不思議。。よくGUCCIがこの映画にGOサイン出したな。ある意味太っ腹。

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トム・フォードの口紅は「リチャード」「ジョン」「アディソン」というように、トムがこれまでに影響を受けた男性や、親しい関係にある男性、尊敬する男性の名前が付けられている。「デート相手を1人(1本)に決めなきゃいけない理由なんてないだろう?」とトムは語る。

GUCCI自体には思い入れはないんだけど、学生時代に短期バイトしたことがあった。グッチ新宿の3階で開催された森山大道展のスタッフとして、3週間ばかしGUCCIに通っていたのだ。まじめな苦学生だったので、昼休みにはGUCCI店内のスタッフルームで自宅で握ってきたおむすびを食べていた。GUCCI店内で手作りおむすびを食べた女。

www.gqjapan.jp

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森山大道の写真は結構好きなので、大判プリントを思う存分眺められたのはいい経験だった。

 

GUCCIの話はもういい。今月の目玉作品は「フレンチ・ディスパッチ」を置いて他にない。第74回カンヌ国際映画祭に正式出品され、上映後は約9分間もの熱いスタンディングオベーションで讃えられた、ウェス・アンダーソン監督最新作。超豪華キャストとともに贈る、活字文化とフレンチ・カルチャーに対するラブレターだ。映画…というよりアートを楽しむ気持ちで、スクリーンで観てほしい!

searchlightpictures.jp

映画好きならば、「グランド・ブダペスト・ホテル」や「犬ヶ島」の監督の最新作で、個人的にはいちばんの大傑作…と言えば伝わるだろうか。そうでなければ、「スペクター」「ノータイム・トゥ・ダイ」のヒロイン、レア・セドゥのフルヌード・シーンが堪能できるよ!と言えば観てもらえるかな。…007シリーズでも「アデル、ブルーは熱い色」でも脱いでたけどね。レア・セドゥの美おっぱいとパイパンをスクリーンで観よう!

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おっぱいはともかく、本作は、アメリカに本社を構える出版社が、フランスにある架空の街 アンニュイ・シュール・ブラゼで刊行している雑誌「フレンチ・フレンチ・ディスパッチ」が舞台となっている映画?です。

映画?と「?」をつけたくなる気持ち、観終わった人には分かると思う。感覚としては「雑誌を"観る"」というのが1番近かったかな。雑誌映画という新しいジャンルかも。雑誌が記事を寄せ集めて作られているように、この映画もいくつかの記事を映像化したオムニバス作品。

 

こうした前提を知らずに観たので、開始30分くらいで「私は今なにを観ているんだ…?」と不思議な気持ちになった。下記記事に書かれているように東京ディズニーランドでアトラクションに並んでいる時に聞かされたり、観させられたりする、アトラクションの世界観設定を説明する時間がずっと続く、みたいな作品。」というのはその通りだなと思う。

www.fashionsnap.com

しかしだな、初見で話の筋を理解する必要はないのだ。なぜならば、豪華キャストの顔触れ、絵画のように美しい画面構成、計算し尽くされた色彩、ため息しか出ない超絶美術、心地よく沁みる音楽、そして怒涛のように流れてくる字幕を観るのにとにかく忙しいからだ。

「なんだこれ、話についていけない、でも目を離せない!というか瞬きするのが勿体ない!」からの「レア・セドゥのおっぱい!」からの「いきなり本格的な銃撃戦!」からの「雑誌『フレンチ・ディスパッチ』最高かよ!1000冊買いたい!!」から、泣きのエンドロール。

観終わって最初に思ったことは「もう一回最初から観たい、今すぐにだ!!」でした。時間のある人は、当日もう一回チケットを買ってしまうかも。そう、2回目どころか何度でもリピートして観てもらうのが前提の映画(多分)なので、初回で理解しきる必要はないのです。

ここまでセクシーで、バイオレンスで、しかしユーモアと批評性に富んでいて、しかもロマンティックな映画は他にないかも。フランス文化の良く見えるところをグツグツ煮詰めたような映画。とにかく情報量が多い。かと言って「アメリ」や「8人の女たち」的世界観が好きな人もハマると思う。鑑賞後の満足感は保証しよう。

 

私が最も刺さった部分を強いて挙げるならば、雑誌のアートワークかな。イラストもトリミングもすべて好み…。架空の雑誌なのに、ここまで作りこむ監督の熱量に脱帽しました。こんな雑誌読みたいし、作りたいわぁ。

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この作品では、この世にあるはずのない「完璧」な箱庭世界が作りこまれている。監督はもはや創造主の域である。映画という既存の枠を大きくはみ出しまくって、鑑賞者を揺さぶっている。こんな凄い作品を見せられたクリエイターが嫉妬とショックを受けないか心配なくらいである。

©2021 20th Century Studios. All rights reserved.

ウェス・アンダーソン監督は、「完璧」ではない私たち人間とその社会を、悲哀とユーモアをもって肯定してくれる。根本を貫くテーマが人生賛歌なんだろうな。人間っていとしい。働くって楽しい。今がコロナ禍だろうが戦時中だろうが何だろうが、そのゆるぎない真実さえ握っていれば、どうにでも生きられると思った。

早くも今年ベスト映画を観てしまったかも。でもその結論を出すには、もう1回スクリーンに観に行ってからにしよう。

久しぶりの別府に行こう~温泉&バーホッピングで整いまくり

年末年始は都内の実家に行ったり、横浜でのんびりしていたらあっという間でした。とはいえ相当長期で休みを取った。クリスマスから6日までという堕落ぶり。ゴールデンウイークやお盆期間にあまりまとまった休みを取らなかったので、有給が溜まっていたのです…。社会復帰できるか心配なレベルですね。

年末はあっという間に過ぎ、お墓参りや初詣をしていたら3日になっていた。通常の社会人は4日から仕事だと言う。早すぎん?

いやしかし、今年の私は一味違うぞ。なんと4日から1泊で別府に行ったのです。大好きな別府。毎年最低1回は行っていた別府。コロナ禍で約2年ぶりの別府。オミクロンの脅威迫る中、ギリギリのタイミングで行けました。

 

別府に最初に行ったきっかけは「BEPPU PROJECT」のアートイベント鑑賞だけのはずなのに、その土地柄や温泉の泉質、住人たちの優しさに魅了され、今や移住したい県ナンバーワンの座をほしいままにしております。私にとっての癒しスポットでもあり、自分らしくいられる地域でもあります。

www.beppuproject.com

 

朝イチの飛行機で羽田空港に行き、大分空港でリムジンバスに乗ったら昼には別府市街に到着。機内はお正月帰省が終わって空いていた。大分に来たぞと頭では分かっているけれど、あっという間すぎて身体が追いついていない。

まずは腹ごしらえですね。新年だし、景気よくお寿司スタートといきました。別府到着即、電話予約をした「大和田鮨」へ。通常は予約の取れない人気店です。

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店内は写真NGなので様子は伝えられませんが、関あじ・関さばをお造りでいただきつつ、数の子のつまみ、カワハギのお刺身(肝あえ)あたりをオーダー。休日らしく昼間っからお酒もいっちゃいましょう。

まずは瓶ビールで喉を潤して、地魚に合わせて地酒の和歌牡丹、西ノ関、知恵美人を。そしてここぞというタイミングで特上にぎり。ご、極楽…!わずか1時間の滞在でしたが、口と胃で別府の祝福を浴びることができました。新鮮な海の幸と緑酒を口にして、ようやく今別府にいるという実感を持てた。


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明るいうちから散歩しよう。夜には一変する景色。日本一の湧出量を誇る観光地・別府は、夜の街としても人気が高いのです。

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今では貴重なピンク映画館もあります。昔はストリップ劇場もありました。別府は猫の街としても有名で、何気なく撮った写真に猫が映り込むこともしばしば。

 

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いつ見ても写真に撮りたくなる「エッチ美容室」。迎春仕様だった。そこの人、回春とか言わないの。


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駅前は再開発が進んでいますが、路地裏に情緒が残っていて、昭和の片鱗を探すのも楽しい。国際民宿というのは、訪日外国人をお迎えできる資格を認められた宿に与えられているもの。コロナ前は日本全国で訪日外国人をお迎えしていましたが、そのずっと前から別府は広く開かれていたんですね。


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商店街に突如現れる「やよい天狗」。すごく立派でご利益がありそう。写真撮影者が「ちょっとそこで手をあげて」と言うので言う通りにしたら、なんか卑猥な感じに…。


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お腹を満たしたので、いよいよ温泉に入りましょうか。まずは、レトロな建築も魅力的な「駅前高等温泉」へ。駅前かつ街のど真ん中にある温泉です。白壁に緑色のトンガリ屋根。大正浪漫をまとった姿。ぬる湯・あつ湯は各200円。今日はぬる湯気分だ。

 

さっと衣服を脱ぎ捨てて、生まれたままの姿になって湯船に浸かった。とろんと滑らかなお湯が肌に優しい。少しして妙齢女性が入ってきた。「こんにちは」と挨拶してくれ、短い時間世間話をした。これ、湯浴みケーションとでも言うべき別府文化。街の住人だろうが観光客だろうが、一緒にお風呂に浸かっている間は関係ない。相手が誰だろうと挨拶して、「今日は寒いですね」とか「湯加減大丈夫ですか」とか話しながら、いつの間にか晩の献立や最近観たテレビ番組の話なんかをしているんだ。「先に出ますね、ごゆっくり」「これからですか、楽しんで」行き交う人々がかけ合う言葉のあたたかいこと。

 

のぼせる前に上がって瓶の牛乳を飲む。湯上りに飲む冷えた牛乳って、どうしてこんなに美味しいんだろう?別府の湯は身体の芯まであたためるので、湯から出てもまったく冷えない。いつまでも汗がひかないので難儀するくらい。だから別府は冬がいい。

 

ちょうどチェックインの時間になったので今晩泊まるホテルへ移動した。駅前から歩いて2〜3分ほどにある、2021年12月にオープンしたばかりの「アマネク別府ゆらりへ。

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コンクリート打ち放しの外装、屋上にはインフィニティ温泉プール、最上階には展望大浴場・露天風呂を配し、伝統工芸である竹細工をモティーフにした洗練されたデザインが特徴。

ホテルのコンセプトは「地域活性化」らしく、旅館にありがちな囲い込み(チェックインしたらホテルから一歩も出ない密室滞在)はなく、積極的に街に出て行ってもらうことを重視している。温泉はもちろん夕飯も街に行くことが前提で、カードキーを使って街のお店でツケ払いができる「HEYAZUKE(部屋付)」システムを世界で初めて導入したそう。商店街を巻き込んだホテルづくりって面白い。

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1階のロビー・ラウンジではウェルカム・ドリンクがふるまわれており、スパークリングワインもいただけた。

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別府の街並みが一望できるビュー。浴衣やスリッパはSHIPSが監修したお洒落なデザインだった。

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屋上にはインフィニティ温泉プールがある。シンガポールの「マリーナ・ベイ・サンズ」ならぬ「マリーナ・ベップ・サンズ」…。別府市街から別府湾そして自然豊かな山並みを一望できる、別府屈指の眺望が広がる。温水プールと言えども冬場のプールサイドは寒いので、春から秋の方が楽しめるかな。子どもたちが喜んで泳ぎまくっていた。

このホテルは九州のテレビや雑誌で紹介されているのかな。大浴場で話した宿泊者たちは「一度泊まってみたかったの」「出来たばっかりのうちに行きたくて」と口々に言っていた。確かにいいホテルだった。まだオペレーションが完璧でない部分もあるけれど、次もここに泊まりたいと思った。別府って、意外と宿泊場所に困るからね。民宿とリゾートホテル、ビジネスホテルがはっきり分かれすぎていて、痒いところに手が届きにくいから。夜は飲み歩きたいから寝るだけの設備でいいけれど、折角なら部屋はお洒落で過ごしやすく、寝起きに浴衣で行ける大浴場もほしいじゃない。

 

ホテルの温泉も楽しんだので、夕飯に出かけますか。ノープランだったけれど、ダメ元で郷土料理が美味しい「ろばた仁」に電話したら予約できたので駆け込みで。みんな大好きな地元の居酒屋「チョロ松」は改装工事中のためお休みでした。

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ブランド牡蠣の「国東オイスターを初賞味。小ぶりだけどきれいな海の味がした!

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特産「かぼすブリ」サッパリしているのにねっとり甘くて美味しかった。かぼすを含んだエサで育てられているらしい。おすすめ。

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牡蠣好きなのでフライでも。揚げたて最高。タルタルソース美味しい。

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お酒は端っこからどんどん飲みます。焼酎の国らしく良い銘柄が揃っております。そして安い。1時間くらいしてひと通り名物をいただいたところで、店内は満席。予約なしで突撃するお客さんがどんどん断られて出て行く。長居せず席を譲ろうかということにして、次の店に移動。外はすっかり真っ暗で酔客がちらほら見える。


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「喜界島くろちゅう会館」のように面白いテナントビルが多くある。後ろに座ってるおっちゃん、何してるんだろう…。

2年ぶり、絶対行きたかったバーへ移動。もちろん「峰 シティパブリック」
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「別府に行くんだ」と知り合いに言うと、結構な確率で「峰には行くべし」と言われるし、私も人にそう言っている。別府が誇る老舗バーなのである。なんと70周年!

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見てよこの瀟洒な店内。数十年前から時が止まったかのような空間が広がっている。バックバーの所せましと並べられたオールドボトル。このボトル群を見るために「峰」に来るバーテンダーさんも多いんだとか。感染対策のビニールですらインテリアに見えてしまう格好良さ。「峰」は御年86歳くらいのマスター・赤嶺さんが一人で営業している。その昔、アメリ進駐軍相手にカクテルを作った経歴をお持ちで、日本のバー文化を築いてきた、時代の生き証人。

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彼の作るカクテルは、ほろ苦い現実を忘れさせるくらい強烈に甘い。1杯1杯丁寧に、心を込めてステアする様に思わず合掌したくなる。

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撮った写真は自由にSNS等に使っていいとのこと。赤嶺さんは「峰がまだ営業していること、全国の人に知ってほしい。あと何年カウンターに立てるか分からないから早く来てほしいですね」と言っていた。コロナ禍はほぼ1年間休業したんだとか。その前は事故や病気で入院する等、営業も不定期だった。今はほぼ通しで開けているとのことなので、この機を逃さずに訪れてほしい。

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初めて見るバーボンをいただいたり。コーンウイスキーの強さはガツンときた。
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「峰」にはカラオケ設備があるが、これまで歌ったことはなかった。せっかくなので記念に、中森明菜の「セカンド・ラブ」を歌ってみた。昭和な空間は歌謡曲が切なく響く。居合わせた方々、あたたかい拍手をいただきありがとうございました。

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赤嶺さんとパチリ。昔から変わらない、赤チェックのベストがよく似合う。70周年記念のマグカップもいただいてしまった。大切にします!そしてまた来ます。

 

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「峰」を後にしてフラフラと。ノープランでネオン街から商店街へ散策をする。別府は来るたびに新しい店が出来ていて、しかも若い移住者が始める店なんかも多いので、行先を決めずに気の向くまま歩いて、ピンと来る店にお邪魔するスタイルが合っている。

 

浜通りを歩いていたら、「HELL(地獄)」と書かれた看板を見つけた。「THE HELL」というミュージックバーらしい。店内を覗くと、陽気なディスコソングで男女2人が踊っていた。楽しそう。入ってみよう。

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地獄という店名とは裏腹に店内は小綺麗で、さわやかイケメンな男性店主(ケンゾーさん)が一人で営業していた。良い意味で別府っぽくない、どちらかと言うと中目黒っぽい雰囲気のお洒落なお店だ。

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自家製のシロップや果実酒を使ったサワーはどれも美味しかった。バイブス効いたレコードを聴いて、眼鏡男子のケンゾーさんとアートの話をしながら飲むサワー…うん、まごうことなき中目黒だ。

ケンゾーさんは別府に惹かれて移住してきたクチで、前は都内なんかでデジタルマーケティングの仕事をしていたそうな。喋ってみると別府の共通の知り合いも多く、同い年なことも判明した。こういう新しい感性と才能を持った若者がいる限り、別府の未来は明るいと思える。

 

さっきまで踊っていた男女もほぼ同い年で、東京からやってきたと言う。Facebookを交換し合っていたら、カウンターの端にいた20代ヤングが「Facebook…?古くないっすか」と呟いていた。そうか、もうFacebookでつながるのは古いのね…。今はインスタとTikTokが主流なのかと軽くカルチャーショックを受けました。こうして人は老いを実感する。

 

もう1軒くらい行ける時間だ。スナックもいいけれどさっき歌ったし、初見ではどの店に行くべきか判断つかないので、やっぱりバーに行くことにした。夜道をふらふら歩く。

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「スナック黒人」の店名にビビる私。一押しの別府スナックをご存知の方はご一報願います。

 

で、素敵な外観に惹かれて「元町バー」に行った。バックバーと天井画が壮観の隠れ家的スポット。

https://www.instagram.com/beppumotomachibar/

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ここに来て正統派ギムレットにありつけた。こちらの男性店主も、趣向を変えたイケメンヤング。別府には魅力的なバーテンダーさんがたくさんいる。早く閉める店が多い中、深夜3時まで営業しているのは酒飲みの強い味方だ。喧噪から離れた静かな空間に癒された。今夜もいい〆。ホテルに戻って即寝。

 

翌朝は朝寝坊できるのが旅の醍醐味。朝風呂で目を覚まし、朝食のラストオーダーに滑り込み。ここは朝食が人気らしい。どれどれ。

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お分かりいただけるだろうか?お米がピンピンに立っております。1膳ずつ炊き立てを用意していて、ご飯のお供として別府名物やお米に合うオカズを何でも食べ放題。このお米がびっくりするほど美味しくて、つい食べ過ぎちゃう。アマネクに泊まる方はご覚悟あそばせ。

 

さて、チェックアウトして、フロントに荷物を預けていざ出陣。夜のフライトまでたっぷりフルで時間があるわけですが、どこに行こう?

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ま、あれこれ考えるのは後にして、別府に来たら外せない竹瓦温泉へ。どうよ、この痺れる格好良さ。

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湯上り牛乳は幸せの味。別府では一日に何べんも温泉に入るので、最初からすっぴんでいたほうが楽という結論に至る。髪を乾かすのが面倒なので、今だけはショートヘアになりたいところ。食事→温泉→食事→温泉→酒→温泉→酒という無限ループが楽しい。たくさん食べて、温泉入ってお腹空かせて、たくさんお水飲んで、温泉入って汗かいて、ビール飲んで、食べて、眠る。2日間いるだけで身体中の水分が入れ替わったんじゃないかってくらい、水を飲んだし出した。コンビニで買うペットボトルの水じゃなくて、水道水の水で十分美味しい。

 

さて、そろそろ「SELECT BEPPU」が開店する頃だ。普段あまりお土産らしいお土産を買わない私だけど、別府に来たら必ずチェックするのがここ。「別府のまちのセレクトショップ」をコンセプトに、アートでクリエイティブなオリジナル雑貨が揃っているのだ。

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築100年を越える長屋を改装したお店は、街の中にすとんと溶け込んでいる。
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2階で展示しているマイケル・リンの襖絵も必見。
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お目当て買えました。大分県国東市に工房を構える「よつめ染布舎」さんの2022年のカレンダー。温かみのあるデザインに惚れ込み、毎年このカレンダーを使っているのだ。今年もお世話になります。

 

天気もいいし、バスに乗って鉄輪(かんなわ)温泉に行こう。青空に湯けむりが立ち上る景色を心に焼き付けよう。

雲と霧と湯煙と 別府市の鉄輪温泉がふんわり白く - 大分経済新聞

街のあちこちからもうもうと立ち昇る白い煙!大丈夫、火事じゃありません。全て100度に近い源泉からの湯けむりです。鉄輪温泉は別府に8つ点在する温泉地、いわゆる「別府八湯(はっとう)」の1つ。海と山に挟まれ、南北に長く広がる別府市のほぼ真ん中に位置する傾斜地にある。
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周囲には白池地獄や鬼石坊主地獄など、噴気や熱泥、熱湯が噴出する「地獄」を活かした観光スポットがあるほか、大型の温泉リゾートや和風旅館にまじり、昔ながらの湯治宿、貸間などの宿泊施設が点在している。別府八湯めぐりについては、2年前に書いたこちらもよければ。

sakariba.hatenablog.com

 

今回、このタイミングで別府を訪れた理由は「in BEPPU」の鑑賞のためでもある。

「in BEPPU」とは、毎年1組のアーティストを別府に招聘し、地域性を活かしたアートプロジェクトを展開する個展形式の芸術祭。6回目を迎える本年は、世界的に知られる服飾デザイナーの廣川玉枝さんを招聘した。彼女の作品はレディー・ガガのMVでも使われているし、私もSOMARTA(廣川玉枝さんのブランド)の服を数着着たことがある。女性用ストッキングがおすすめです。

inbeppu.com

www.somarta.jp

今回の「in BEPPU」のテーマは「祭り」。廣川玉枝さんは、異界から訪れた神「まれびと」として火、風、水、土など6役を想定し、それぞれの衣装をデザイン。祭り当日は、市民ら12人が「まれびと」に扮し、鉄輪地区を練り歩いた。100年続くかもしれない祭りの1回目が2021年にスタートしたのだ。通常のアートイベントでは考えられないスケールの大きさにゾクゾクする。当日の様子は下記リンクの動画からどうぞ。必見!

inbeppu.com

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「鉄輪むし湯」が「in BEPPU」仕様で恰好良くなっていた。青空に濃い赤が映えること。

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館内も彩られ、働くおねーさま方の衣装も廣川デザインに。ちょっとアイヌっぽい。

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しめ縄にテンション上がりますね。ここのむし湯は独特の形式をとっており、1m四方の木戸を開けて中に入ると約8畳ほどの石室がある。温泉で熱せられた床の上には石菖(せきしょう)という清流沿いにしか群生しない薬草が敷きつめられていて、その上に横たわる。8~10分間かけて蒸され、身体がすっかり石菖の香りに包まれたら石室から出て、源泉かけ流しの温泉に浸かる。

石菖は発汗作用が高く、特に気管支の病気に効果があると言われている。蒸し湯の中は75℃とかなり暑く、耐えに耐えて石室を出た時の解放感ときたら!

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蒸された女。肉まんや小籠包の気持ちになりました。むし湯のベランダで全裸外気浴をしたら、この世のすべてがどうでもよくなります。別府の空気と水と光と大地が身体に染み込んでいく。今さえよければすべてオッケー。地獄は極楽じゃ。

お腹いっぱい朝ごはんを食べたはずなのに、すっかりお腹がすきましたよ。地獄を散策していたら、地獄蒸しができる施設を見つけました。「里の駅かんなわ」で、足湯に浸かりながら地獄蒸しを食べました。足湯がかなり高温で、アチアチ言いながら。何はともあれ、湯上りビール最高。

 

緊急速報で、東京に大雪警報が出ていることを知った。別府はこんなに晴れてて暖かいのに、東京は大変ねぇなんて思いながら。帰りの飛行機は無事に飛ぶだろうか。

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夕方に差し掛かる16時頃、またバスに乗って別府市街に戻った。商店街のトキハに寄ってお土産散策。だいぶテナントが抜けたようで少し寂しい。

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大概の居酒屋が17時スタートなので、15時からやっている「海鮮 居酒屋 海山」で最後の晩酌を。「りゅうきゅう(地魚の漬け)」や「とり天(鶏の天ぷら)」、「団子汁」、「太田のギョロッケ」などを食べながら別府を惜しんでいたところ。

 

これから乗る予定だった飛行機が欠航するという情報が入った。

 

調べたところ、都内は10cmほど雪が積もり、軽くパニック状態になっているそうだ。Twitterは阿鼻叫喚状態。ホットなキーワードは「大雪警報」「帰宅命令」「電車運転見合わせ」「帰宅難民」…。そんな状態なら、当然羽田空港にランディングできないよねー。

 

よし、もう1泊しよう!(決断まで10秒)

「明日から仕事初めの予定だったんだけどな(真実)、仕事したかったんだけどな(本心)、帰れないなら仕方ないよね(苦渋の決断)」と言いながら、笑顔でアマネク延泊と翌朝の飛行機を手配。

延泊となると、まだ別府に滞在できるってことで、17時以降オープンの店がすべて候補として立ち上がってくるぞ。昨日行っていないバーにも行ける。盛り上がってまいりました…!ピンチはチャンス。トラブルはラッキー。こういう時あまり動じずにポジティブな発想しか出てこないのは得な性分だな。1分1秒でも長く別府にいられてハッピー。…雪で往生していた皆様には申し訳ないですが。

 

じゃ、そうと決まれば温泉に行こう。近場の「梅園温泉」へ。1916年創業。

ここは2016年4月の熊本大分地震で被災し、取り壊しに。地元の人たちと温泉愛好家たちの尽力により、2018年12月にリニューアルオープンとなった。再建費用の一部をクラウドファンディングで募集したことから話題を呼び、目標金額500万円を大きく上回る約620万円が集まった。別府の温泉愛を感じられる地域の名湯です。

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湯上りぶらり。
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ジェラートが美味しいジェノバで恒例のラムレーズンを。季節限定のラフランスも美味しかった。一度ホテルに戻って再チェックイン。荷物を部屋に戻して、今夜の計画を考える。

tabelog.com

 

軽く食べたからひとまず食事はいいとして、結構歩いたし明日帰京することを考えると、マッサージに行って身体を労わる時間があってもいいね。

アマネク内にあるマッサージサロン「たまゆらで、60分間コースの「湯治頭ほぐし+湯治足つぼ」を即予約。これが良かった!店内はきれいで、セラピストの腕は良くて、最高の癒し時間でした…。

mitsuraku.jp

 

体制を整えて20時半頃街に繰り出す。翌朝早い便で戻るので、23時頃にはホテルに戻って寝たいね。2時間弱のランデブーに勝負をかける。

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気になっていた「Bar井ノ上」はお休みなのかやっていない。「HELL」のケンゾーさんに薦めてもらったバー「ラ・プリエール」も正月休みのようなので、次回に期待。

 

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それでは、北浜・トキハ裏にあるバー「LEFT ALONE」へ。重厚感ある扉にドキドキ。

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入口近くにはテーブル席、奥には長いカウンター。店内のモニターにはサントリーのCM集(マスターが編集したそう)が流れていて、「ウイスキーがお好きでしょ」と歌が聴こえる。メニューブックを開くと、細かくルールが書かれていた。酔って騒ぐな、みだりに客に話しかけるな…。ふむふむ、気をつけなきゃ。

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1杯目はジンリッキー。温泉&マッサージを経て、まるで今日初めてアルコールを飲んだような新鮮な気持ちです。

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ウイスキーがお好きでしょ」のフレーズを聞きすぎたせいか、隠れていないサブリミナル効果ダイレクト・マーケティング!)のおかげか、ハイボールを注文してしまった。「ハイボールと唐揚げで”ハイカラ”!」と言う菅野美穂を見ていたら、つい唐揚げも食べたくなる。どうにか我慢して、オイルサーディンをいただいて事なきを得た。ショートカクテルもいただきたいところだったが、もう1軒行きたいのでまた次回。

 

ラスト・バーを飾るのは駅前のバー「Blue Point」。2018年頃にオープンしたらしい。福岡のホテル・バーで腕を磨いた男性マスターはホスピタリティにあふれていて心地よかった。

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丁寧に丁寧にステアされたマティーニ。優しい味がした。美しいステアをする人の指ってセクシーだなぁと見惚れた。


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「ブルーポイント」という店名に合わせてブルームーン。高級感ただよう薄紫の色合いと、パルフェ・タムールの駄菓子みたいな味わいのギャップが昔から好き。


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季節ごとにフルーツを使ったソルティドッグを提案しているそうだ。今はイチゴ。塩のエスプーマ(泡)がモコモコ浮かぶ。泡風呂みたい。甘酸っぱくて美味しい。


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今更ながら別府駅。「ピカピカのおじさん」こと油屋熊八像を拝みます。油屋熊八は、別府では知らない人はいないであろう有名人。何しろ、別府を観光地&温泉地としてブランディングした張本人なんだから。また別府に来られますように、楽しい旅をありがとうという気持ちで見上げます。次回は別府の高架下も行かなきゃね。

www.9navi.jp

 

小腹が空いたので、「じんで」で〆うどん。ラーメンでなく、うどんなのでヘルシー(ということにしましょう)。

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2日間狼藉した胃に染みる、かきたまうどん。つるつるふかふかな茹でたて麺に、かつお出汁とふわふわ卵、シコシコかしわがベストマッチ。腹の底からポッカポカ。遅い時間なのに続々と地元の人がやってきてうどんを啜っていた。ラーメンだと重すぎるから、別府の夜には優しいうどんが似合う。湯気をふぅふぅと吹いて、熱い器を抱えて夜を超える。

 

翌朝、朝風呂でシャキッと目覚めて空港へ向かう。都内の雪は昨夜のうちに止み、飛行機は無事に飛ぶようだった。

帰京したらまた忙しい日々が始まるのだろうか。湯から湯へ、バーからバーへと自由に渡り歩く時間がすでに恋しい。フライトを待ちながら、Kindleで途中まで読んでいた本のページを捲る。

 

この本、とても興味深い考察がなされているのでシェアしたい。様々なストレスで心のバランスを崩した歴史学者が、どうして現代人は心を病みがちなのかということを、歴史学を用いて、そして自身の体験をもとに考察している。

本の中で、色々な要因があって言葉と身体の均衡が崩れると、うつ病双極性障害統合失調症などの症状として表出するのではという試論をしている(超大雑把にまとめていますので詳細は本を読んでください)。言葉に偏りすぎても、身体に偏りすぎても生きづらくなるのだと言う。

日頃から言葉に偏りがちな私には耳の痛い教えだ。なんせ、言葉を使う仕事をしているにも関わらず、息抜きでブログを書くくらい言葉に囚われていて、常に言葉に触れていた方が落ち着くという活字中毒ぶりなので。

頭の中に常に言葉が溢れていて、書き言葉として整理整頓することでようやく憑き物が落ちる感覚がある。言葉を美しく配置することに快感を覚える。

言葉が脳のストレージいっぱいになるとフリーズを起こす。だから定期的に吐き出したり、「何もしない&考えない」時間を作らないと処理落ちしてしまう。けれど「何もしない&考えない」ってどうやったらいいの?と長年疑問に思っていた。

今回、別府に来て、そして「知性は死なない」を読んで、その疑問が少し解けた。ポイントは言葉(思考)と身体(感覚)のバランスだ。日常で言葉に偏りがちならば、意識的に身体を使えばいいじゃない、と。そう、お分かりですね、温泉です。

 

強制的に何も考えられなくなる時間。身体の感覚にリソースをすべて持っていかれる気持ちよさ。頭からつま先まで、積もり積もったアレコレをきれいに洗い流せる場所。現代人がサウナにはまるのも、身体の感覚を取り戻したいからなんじゃないかとも思える。もちろん私もサウナが大好き。

 

温泉入って五感を研ぎ澄まし、美味しいもの食べたり、知らない路地を歩いたり、飲んだことないお酒の香りを嗅いだり、人々の生活音を聞いたり、海風を感じたり、今・ここにある身体の生の感覚だけに集中しよう。煩わしい理性を全部手放したら、自分が本当にしたいことが見えてくるはず。

身も心もすっぴんになれる街、それが別府。老いも若きも別府に行って整おう。別府にのぼせろ。

 

www.gokuraku-jigoku-beppu.com

※この記事は別府市等のPRとは何の関係もありません。筆者は単なる別府ファンです。ですが、一人でも多くの人に別府に行ってほしいので、別府に関する書き物でしたらいつでも依頼をお待ちしています。

新春映画初めは「偶然と想像」と山中貞夫4K復刻版で決まり

あけましておめでとうございます。新年1発目は横浜のジャック&ベティで「偶然と想像」を鑑賞しました。破竹の勢いで各国の賞を総舐めしている「ドライブ・マイ・カー」の監督・濱口竜介さんの新作映画です。

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「偶然と想像」は3時間超の長編「ドライブ・マイ・カー」と異なり、3本の短中編を集めた短編集。どちらも同時並行で企画・撮影・編集が進んでいたというから驚きです。

あまりの完成度と脚本のすばらしさ、役者陣の真に迫った演技にやられてしまい鑑賞後立ち上がれなかった「ドライブ・マイ・カー」と良い意味で違い、解釈の余白やユーモアを随所に散りばめつつ、やっぱり計算され尽くした脚本の妙に踊らされる感覚が新鮮でした。比較するのも面白いと思う。

短編は3本とも「性(ジェンダー)」を扱っていて、小さな「偶然」をきっかけに対話を通じた「想像力」を働かせて、登場人物たちは人生を一変させてしまうような時間を過ごすという共通点がある。会話劇のような、朗読のような、コントのような、即興劇(エチュード)のような、ジャンルを超えた作品です。パンフレットによれば、全7本を制作予定とのことなので、続きが楽しみです。3本とも良かったけれど、2本目の「扉は開けたままで」が特に心に残ったなぁ。

構成も良くて、1→2→3の順番だからこそ成立する魔法があって、何なら3本目では泣いてしまった。地球上に、まだ出会っていない他人同士であっても、対話によって心を通わせることができて、互いの存在を尊重し合える可能性が残されているという希望に胸が熱くなった。

相手の話を、相手の立場に立って、相手の気持ちに共感しながら理解しようとすること(傾聴)が、お互い一人では決して到達できない深い気づきをもたらすということを証明した作品だなとも思った。

昔演劇をしていた時にしばしば感じていたんだけど、同じ脚本・台本を読んでいても、役になり切れて心の底から出た台詞を言い合えた時は、「演技」を超えた「ホンモノ」が生まれて、舞台上に奇跡みたいな時間が訪れた。「ドライブ・マイ・カー」の劇中劇でもそういう瞬間をたくさんとらえていた。役者という生き方を選んだ人たちは、そういう奇跡を自分で引き出すことができる人たち。

濱口監督は、東日本大震災後の東北を追った映像作品をいくつか手掛けていて、その経験も活きていると感じた。「対話の可能性」を信じている人だ。そして「ドライブ・マイ・カー」やその他の作品を経て、「性(特に女性性のミステリー)」を媒介にした対話が、今取り上げるべきテーマだと確信しているように感じる。

何はともあれ、観終わった後に人と喋りたくなる映画です。できれば、恋に落ちたい人と観に行って、夕飯を食べながら感想を話し合って、そのままうっかり終電を逃して夜明けまでじっくり話してほしい。で、何もせずに「またね」と握手して解散してほしい。そういう映画です。

 

観終わってから、野毛に出向いていつもの「PEAT HOUSE」で乾杯。

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アランのピーテッドが美味しかった。この後いただいたオクトモアの新作も好みだった。

 

神保町シアターの新春特番で山中貞夫特集も観た。サイレント映画からトーキーへの移行期にあたる1930年代の日本映画を代表する監督のひとりであり、28歳の若さで亡くなった天才監督です。

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わずか5年間の監督キャリアで26本の時代劇映画(共同監督作品を含む)を発表したが、その多くは消失または焼失しており、フィルムがまとまった形で現存する作品は「丹下左膳余話 百萬両の壺」(1935年)、「河内山宗俊」(1936年)、「人情紙風船」(1937年)の3本しかない。

そのうえ「丹下左膳余話 百万両の壺」の現存フィルムは、戦後再公開時にGHQの検閲でクライマックスのチャンバラシーンがカットされた不完全版であり、後にそのカット部分はわずか約20秒の玩具フィルム(ただし音声は欠落している)で発見された。

2020年、国際交流基金と各映画会社の共同事業として、現存する3本の4Kデジタル修復版が作られ、2020年の第33回東京国際映画祭の日本映画クラシックス部門で上映された。で、今年の新春特番でそれが観られたってワケ。激アツでしょ。
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件の「丹下左膳余話 百萬両の壺」、日本映画史上の傑作中の傑作、と言っても足りないほどの、まさしく「神作品」でした。プロットの緻密さや考え抜かれた小道具の使い方に加えて、天才・山中貞雄の演出や画面づくり、完璧な映画美術、リズミカルなテンポが心地よくて痺れた。膝を打ちすぎて膝パーカッションしてしまうくらい。どこかのスクリーンで観る機会があるならば絶対に見逃さないでほしい。

丹下左膳余話 百万両の壺
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映画の余韻に浸りながら、いつものオレンジのトンネルを抜けて現世に還っていく。
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「映画と餃子の会」榛じいと新年会。今年もたくさん観ましょう。

 

解散後、ちょっと時間が早かったので一人でもう1軒。たまには開拓してみよう。路地裏の赤ちょうちんに惹かれ「炉端ふねさん」へ。

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男性店主が一人で切り盛りする小さなお店だが、メニューは酒飲みホイホイなアテばかり。新年から飲みすぎなので、黒霧島のお湯割りでゆっくりいきましょう。珍味・かつお腹皮炙りにたっぷり大根おろしをつけてクピリ。
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薄く切った長いもをさっと焼いて醤油を塗ったもの、家でもやりたい。サクサク食感とほっくりした甘味が酒に合うんだ。
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店主の故郷・秩父名物らしい「しゃくし菜漬け」。野沢菜よりも塩味が控えめで、乳酸菌発酵が感じられる爽やかな一品。とても美味しかったので秩父行ったら買いたい。


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本ししゃも。最近は偽ししゃも(カペリン)が出回っているので貴重な1尾ですね。


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「ちょっと失敗しちゃったのですが…」と出してもらったのは山椒漬け。辛い南蛮と粕を寝かして、それに野菜を漬けたもの。南蛮を入れすぎて辛すぎくし過ぎたらしい。辛い物好きなので美味しくいただけました。

 

お酒や肴が豊富で、ひとり2次会利用にちょうどいいお店だった。また行こう。オミクロン株の脅威で居酒屋酒提供がいつまで続くか分からないので、行けるうちに。