盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

浅草ロック座12月 真白希実引退公演「with final」でグレイテスト・ショーガールの生き様を見届ける

色々な出来事があった2023年も終わりに近づいてきました。スト客はこの時期「どこで劇場納め/初めする?」なんて挨拶を交わし、各劇場の香盤や状況を細かくチェックします。休暇に入ったし遠征しちゃう?心ゆくまでプンラスもオツですよね。

先日、テレビ朝日イワクラと吉住の番組』でストリップの魅力や楽しみ方が紹介されたこともあり、どこの劇場でもご新規さんや訪日外国人のお客さんが連日見受けられ、観光回復&経済活性化の明るい空気を感じます。

一方で、2023年をもって引退・休業する踊り子さんも数多くいらっしゃいました。徳永しおりさん、望月きららさん、緑アキさん、愛奈さん、浅井ひなみさん等々…。

 

ロック座の至宝・真白希実さんも2023年末で引退するという電撃ニュースが流れたのは5月のことでした。何なら元号が変わるくらいのインパクトがあり、スト客のタイムラインは一時騒然となりました。その後真白さんは半年をかけて全国の劇場を巡り、演目をひとつひとつ仕舞っていきました。

引退作は川崎ロック座にて披露し、引退興業はポラ館ではなく浅草ロック座。もし引退がポラ館だったら連日満員の密状態は確実で、ポラを撮る列がいつまでも途切れないために巻き進行や演目カットは避けられないでしょう。DX歌舞伎町閉館の際がそうでした。コロナ前だったらそういう「お祭りムード」もアリでしたが、ただでさえ感染症が流行りやすい冬に劇場クラスターでも発生したら目も当てられません。

ストリップ文化を愛して、劇場や他の踊り子さんたちへの負担を増やさないため、そして遠方からも来るお客さんに最高のステージを魅せるために「立つ鳥跡を濁さず」の精神で浅草ロック座での引退を決意したであろう真白さん。これぞプロフェッショナルの心遣いだなぁと思います。私の想像なので実情とは異なるかもしれませんが…。

 

さて、いよいよ来てしまった引退興業。12月25日、性なるクリスマストリップとしけ込みました。1回目トップから観劇し、運良く2・3回目はかぶり席にありつけました。サンタさんのクリスマスプレゼントだったのかも。

f:id:sakariba:20231227110003j:image

スタンド花も鮮やか。「お疲れさまでした」の8文字に無限の想いが込められているのを感じる。
f:id:sakariba:20231227105952j:image

【with Final season 2023/12/11-12/30香盤】(敬称略)

1景 大見はるか

2景 ALLIY

3景 木葉ちひろ

4景 ゆきな

SS(スペシャルステージ) 真白希実

5景 小宮山せりな

6景 空まこと

7景 真白希実(引退)

 

公演名は「with」。「~とともに」の意味を持ち、今時は小学生でも知っている初歩の前置詞です。使いやすい言葉だからこそ多義すぎて日本語訳がしづらいくらい。どうやら「Dream on」や「Re」など過去の年末公演のような分かりやすいテーマを表現するわけではないようです。「with」の演目は時代も内容も様々で、独立した作品がオムニバス形式で進む構成でした。

演目のバラエティが富んでいたことから、8本の短編映画を観たような第一印象を持ちました。そのことから、「with」は何らかの映画・舞台作品をモチーフにしているのではないか?と感じています。

感想をまとめるにあたり、各演目名が明らかにされていないので、小道具やヒントに演目のテーマを探ってみました。きっと的外れなアイデアばかりでしょうし、「『with』はそういう深読みする公演じゃないから」とツッコミ入れたくなるのは承知しておりますが、ハイコンテクスト好きの浅草ロック座の演出家の方々が何の意図も持たずに公演を構成するワケがないだろう…!と思っておりますので、野暮ですがそれぞれ考察を試みました。拙いレポートですが、未見の方やもう一度観劇する方が演目のイメージを膨らませるのに役立てば嬉しいです。

 

1景 大見はるか

真白さんによる開演の口上が終わり、「It's show time!」とショーの幕開けを予感させる掛け声SEが流れて場内が明転すると、すばやく前盆の暗幕が外され、濃いピンク色の衣装に包まれた踊り子たち7名が盆上に勢揃い。

フリンジがたっぷりと縫い付けられたビキニとアンダーが目の前で揺れる揺れる。首にはビーズが光るチョーカー、手首にはリストバンド、髪にはオーガンジーのヘアアクセをつけていて、とっても華やか&ゴージャス!

本舞台に立てられた4本のポールには濃いピンク色の布がパラソルのようにつけられており、自在に広げられるようになっていた。踊り子が代わる代わるポールをすり抜けて舞い、ひらめく布と揺れるフリンジに視線が翻弄されて大変良い心地。

大見さんが衣装を脱ぎ、渡された濃いピンク色のマラボーを身にまとう。ボリューミーなマラボーのフリルの縁にはシルバーのスパンコールが縫い付けられ、ただでさえ豪華絢爛なのに動く度にキラッキラ輝く。大量のフリル全部にスパンコールをラインで縫い付け…だと!?恐ろしく手間がかかっている…!

大見さんの小柄で華奢な裸体に巻き付くマラボーは生き物のようで、すっぽり包まれた時はそういうドレスみたいに見えて可愛かった。運動性あるポーズも格好良く、勢いよく開脚する技は何度観ても感動してしまう。

 

識者によると、2009年公演(未見)、そして2021年「FLASH」1景(観劇)の再演とのことで、特にモチーフとしたものはない演目でしょうが…。

個人的には、映画『シャーペイのファビュラスアドベンチャー』(2011年)という少しマニアックなディズニー映画を想起しました。映画『バービー』(2023年)もピンクモチーフだし旬か?と思いましたが、もしそうならバービーのテーマやDua Lipaの「Dance The Night」を使うだろうし違うかなと。

M3の作曲は今年亡くなった某教授が作曲で、ちょっと切なくなる名シティポップ。当公演にこの演目を持ってきたのは教授への追悼を込めている気もする。そう考えると、サーカスがモチーフだったりするかも。冒頭の「It's show time!」ともつながるし。

いずれにせよ、オープニングアクトに相応しい華やかな演目でした。

衣装は全然違いますが、ピンクつながり×ブロンドということで。女の子が舞台に立つことを夢見て努力し、最後には夢に一歩近付くストーリー。

2景 ALLIY

女たらしのカウボーイ演目。

本舞台の上手に、西部劇に出てくる酒場の両開き扉と丸テーブルが置かれ、酒場の店内でひとり佇むALLIYさんがハーモニカを吹いている。黒いテンガロンハットを被り、スパンコールがキラキラなジャケットの下にはつるりとした黒いシャツ、大ぶりなベルト、細身のジーンズ、ブーツを身につけている。カウボーイ(男装)だけど身体のラインがくっきりしていてエロいのはALLIYさんの実力!

そこに登場するのはキャピキャピ可愛いカウガールに扮した小宮山さんとゆきなさん。2人はALLIYさんを店外に連れ出し、3人でダンスを踊る。完全に目がハート状態のギャルズを侍らせ、ちょいちょいボディタッチをして口説きにかかる。モテる人だ、ワルい人だ。

カウガールが去り、ALLIYさんは腰掛けてブーツとジーンズを脱ぐ。ジーンズを手で持ち脚を上げてくるんと後ろに倒れる脱ぎ方がお見事。生足が光る。ジーンズの下にはジーンズ素材のホットパンツを履いており、一瞬にして男装カウボーイからセクシーなガンマンに変貌!さっきまで飲んでいたエールの瓶を持ち、時折前方のお客さんと乾杯しながら楽しそうに盆に進む。曲に合わせたヘドバンも決まっていた。

で、ここからのベッドがALLIYさんの真骨頂よ。ゆっくりと衣装を脱ぎ、どんどん「オンナ」度が高まっていく。シャツを出すだけなのに何でこんなにエロいんだろう?

ホットパンツを脱ぐため、立ったままお尻側のファスナーを下ろしていく。なんとこの短パンはファスナーが180度付いていて、お腹側からでもお尻側からでも脱ぐことができるのだ。誰向けの服!?どう考えても、誰かに「脱がしてもらう」か「脱ぐのを見せつける」ために作られたエッチな服じゃん。

類似アイテムをAmazonで見つけました。素肌で着るとデリケートな部位を挟みかねないので素人は大人しく下着を履きましょう。

ファスナーを全開に開き、ホットパンツが左右に分かれる。両手でホットパンツを振り回すと締まったヒップが露わになり、何も隠すものがない状態に。ノーパンガンマン!このホットパンツが非日常すぎて頭がついていかない。ただの裸よりよほど扇情的。
お尻には銃のタトゥーシールが大きく貼られ、挑発的。左胸にもタトゥーシールが貼られていた。何の柄か知りたくてガン見しましたが、2発の銃弾+4文字の英単語(TOWN…?)ということしか分かりませんでした。分かる方ぜひ教えてください。
テンガロンハットを足先にひっかけたままポーズを決めたり、小道具をうまく使いながらセクシーに、ワイルドに魅せてくれました。女も惚れる女とはこのこと。

 

さて、この演目のテーマは、西部開拓史時代に実在した女傑「カラミティ・ジェーン」かなと思いました。彼女は世界一有名な女性ガンマンで、色々映画化や小説化されています。男勝りの射撃の腕を持ち、カラミティ(厄病神)とあだ名されるお転婆娘だったそう。

ja.wikipedia.org

まぁ普通に男性カウボーイを演じたのかもしれませんが、この説で解釈するとALLIYさんはプレイボーイではなく女好きのバリタチということになります!!小宮山さんとゆきなさんとのあの絡みはラブラブ♡レズプレイという妄想も可能になるのですよ。叙述トリック!胸熱!彼女たちのお尻を鷲づかんだり、跳び箱をしたり、イチャイチャしていたあのシーンは百合表現だったのかもしれない!?てぇてぇ~~。

…真実は踊り子のみぞ知る。

 

3景 木葉ちひろ

当公演は超豪華キャストで全員主人公なんだけど、木葉さんの色っぽさが年々上がっているのを知れたのが個人的に大きい収穫でした。特にこの1~2年やばない?「祭音」のス○ーピーもエロ可愛かったけど、「with」では存在そのものがエロさの象徴だし、たぶん当公演で一番エロい演目だった。

身長170cmの恵体にパリコレモデルばりの小顔と美脚(10頭身は堅い)、腹筋の線がくっきり浮き出るほど鍛えられた体躯にほどよく乗った女の肉。腰の位置が高すぎて同じ人種とは思えない。そして大きな骨盤にたっぷりヒップ!足長族×おしりフェチとしてはたまらん美ボディをしていらっしゃいます。はちきれそうな太ももに挟まれたいですね。

 

これはテーマが分かりやすく、長年人気踊り子が演じ続ける名演目「飾り窓の女」です。2013年「PEACE LOVE ROCK」(あすかみみさん)以来、2019年「Dream on」(小室りりかさん)、「Shine on」(矢沢ようこさん)で登場しました。

舞台セットが特徴的で、本舞台にショーウィンドウのような長方形の5つの箱が置かれていて、それぞれの箱に踊り子が入っています。箱の前面には透明フィルムが、背面にはカーテンが掛けられています。売春が合法な国・オランダの赤線地帯(Red light district)の性風俗文化「飾り窓」の再現です。

飾り窓は、(主に出稼ぎの)売春者が建物の窓際に立ち、路上を歩く男性客をあの手この手で誘い、おカネと引き換えにひとときの夢を見せる、現役の性風俗です。日本国内の人権団体やフェミニストからは白い目で見られそうですが、オランダでは売春は立派な合法商売で、セックスワーカーも労働者として権利を持ち、犯罪や性被害の温床にならないようしっかりと国に管理されています。ちなみに現在オランダ全土で2~3万人いると推算されています。

 

ja.wikipedia.org

筆者は赤線や遊郭に関する調べ物や実地調査が趣味でして、2018年にアムステルダム出張の際、飾り窓を見に行っていたので、当時撮った写真を載せておきます。今ではコロナ禍も乗り越えて元気に営業していると噂で聞きます。

アムステルダム市内いくつか赤線地帯がありますが、どこも観光地化されていて外国人(男女ともに)が多く訪れます

派手なネオン遣いが特徴で、窓内に立つ女性たちは年齢も国籍も様々でした(売春者を写さないように気をつけています。ここはたまたま中が不在でした)

飾り窓やセックスワーカーに関するミュージアム。めっちゃ面白かった

ミュージアム内、飾り窓に経つ売春者気分を味わえる体験コーナー。日本で言うと遊郭の中の人になれるようなもんですね。即炎上モノです。あまりに進んでる…。

tabizine.jp

ampmedia.jp

 

だいぶ本題から逸れてしまいましたが、木葉さんは歴代の「飾り窓の女」に負けず劣らずの名演でしたし、何なら一番好きでした。ダンスもベッドもポーズもすべてが良かった。黒髪ロングのイメージが強かった彼女は金髪ブリーチヘアで外国人娼婦風にイメチェン。ベッド着は黒ショーツに黒ガウン、ピンヒール。つよつよ。

飾り窓らしく、彼女を買った客との「プレイ」をイメージさせるベッドが繰り広げられ、あんな表情での誘惑、こんな体位での挿入とアダルティーな表現が乱れ打ちでした。木葉さんファン息してる?童貞ならこの演目観るだけでノータッチ射精しちゃうと思う。

 

飾り窓を照らす演出も進化していた。プロジェクターで映像を投影しながらピンスポットや天吊り照明を組み合わせてダブル効果を狙っていたのが白眉。映像や照明の色が背景のカーテンと踊り子の身体にくっきり写り扇情的だし、透明フィルムがあるおかげで透明有機ELのような(Perfumeやライゾマティクス等が使う高級機材です)見え方になっていた。音楽やテンポに合わせて映像と照明を点けたり消したり、この調整めっちゃ大変だったろうなぁ!と技術さんに拍手を送りたい。

飾り窓の踊り子たちも衣装もひとりずつ変えていて、ブラックライトで光る素材も取り入れていて芸が細かかった。あと2景でバキバキに踊っていたALLIYさんがしれっと加わっていてビックリした。早着替えすぎる。

 

というわけで、この景のモチーフは映画「飾窓の女」(1944年)です。映画の内容と関係ないので、タイトルだけですが。

 

4景 ゆきな

分かりやすく、そのまんま、交響詩・映画・ミュージカル作品の『パリのアメリカ人』。第二次世界大戦直後のパリを舞台に、アメリカの退役軍人が1人の女性と恋に落ちる話。原作は戦争の影響色濃く割と暗い話ですが、この景はおしゃれな軽やかさが特徴でした。バレエの動きを多く取り入れていて、男女で踊るパ・ド・ドゥもきれいだった。

水色に白い水玉柄のワンピース姿のゆきなちゃんは、髪を金髪に染めてクルンと外はね。同柄の大ぶりリボンカチューシャをつけていた。雪のように真っ白な手足、陶器のようにつるつるな肌、丁寧にリップラインを整えた口紅、弾ける笑顔。上等なフランス人形のようでとっても可愛かった。君こそシャンゼリゼ通りのパリジェンヌ

ベッド着は明るいレモンイエローのロングドレスで、たっぷりのレースやフリルが彼女によく合っていた。「少女」が「レディ」になる瞬間を見たおじさんの気分です。

broadwaycinema.jp

 

SS(スペシャルステージ) 真白希実

「with」1stと2ndには無く、finalで新登場した演目です。引退公演や特別興業ならではの追加ステージで、これまでも「トリの顔見せ」的に挟み込まれることがあったので違和感はないのですが、正直なところ初見は驚きました。

前景までの雰囲気とガラリと変わるシリアスな音楽が流れ、無人の本舞台が開かれたと思ったら、引退される真白さんが和装姿をして真剣な表情で登場。思わず居住まいを正して観劇しました。

真白さんは深紅の男物長着に、銀色の地に模様のついた袴を着て、真っ赤な足袋を履き、日本刀を構えている。髪は一つに束ねたポニーテールで、表情は硬い。

楽曲はジョルジュ・ビゼーカルメン》 から「ハバネラ」。マリア・カラスの歌唱でした。「カルメン」は言わずと知れたフランス・オペラの代表作ですが、その劇的な効果とリアリズムの手法は当時の観客の度肝を抜き、歴史的名作として評価され、現代まで続くオペラの先鞭となりました。…そういえば「パリのフランス人」演目からのフランス語の楽曲というつながりがありますね。

カルメンおよびハバネラは著作権の保護期間(作者没後50年)が切れた作品なので、著作権ルール上動画URL・歌詞掲載や演目使用名言は問題ないと思いますが、もしアカンかったらご指摘ください。削除します。

www.youtube.com

愛は流浪の民

法律なんて知らないの

あなたが私を愛さなくても 私はあなたを愛す

もし私に愛されたら、気をつけなさい!

真白さんはこの「je t'aime(私はあなたを愛す)」の部分で刀を振るい、何かを斬りつける。照明によって舞台が真っ赤に染まり、怖いくらいに格好いい。バトントワリングの名手でもある真白さんならではの剣さばきは見事。

わずか数分のステージですが、鮮烈な印象を与えます。他の演目が年末興業らしくハッピーで明るめな内容なのに対して、このステージだけが異様にミステリアスなので、若干浮いているように感じました。引退公演にこうしたスペシャル・ステージを用意した浅草ロック座、演じた真白さんの意図とは何なのでしょうか?常に我々スト客の一歩も二歩も先を行くロック座/真白さんからのメッセージが隠されているに違いありません。

しかしながら現在のところ公式から一切情報がないので、限られたヒントを頼りに勝手に推測するしかないです。ひとまず当公演のフィナーレまでレポートを書いた後、私見を後述します。しばし待たれよ!

 

5景 小宮山せりな

4景に続き演目出典は明らかで映画「天使にラ○ソングを」(1992年)。敬虔なシスター役のせりなさんが、他のシスターたちの手ほどきによって自分の殻を破っていくドリームストーリーです。

時節柄、訪日外国人のお客さんが多い中「宗教演目は大丈夫か…!?」と一瞬心配しましたが、クリスマスシーズンということもありめっちゃ盛り上がっていました。(まぁ、いつぞや十字架でオナニーする演目もあったくらいだし、このくらいは全然セーフです…)

シスター役に真白さんも参加し、みんなでわちゃわちゃコミカルに踊る表現が楽しい。みんな楽しそうだなぁと素直に微笑ましかったです。せりなシスター、ハジケすぎてどスケベ修道服に着替えちゃうのもご愛敬。あんなに深くスリットが入った修道服あるのね!?

白いシースルーロングのベッド着に着替え、花道へ。鍛え上げられた上腕二頭筋、広背筋、大腿四頭筋、内転筋が輝いています。たぶんこの会場のお客さんの誰よりもストイックに鍛えた肉体の持ち主です。すっごい格好良い肉体なのに超可愛いベビーフェイスっていうギャップにメロメロです。

天井から吊られた白いティシューをほどき、女性のハイトーンが美しい賛美歌を聴きながら精神統一。4曲目でティシューに登り、圧巻のパフォーマンスを繰り広げます。浅草ロック座ならではの高い天井にエアリアルは本当に映えます。ヌードを支える白いティシューは天使の羽のようで、このステージの間、彼女は天から舞い降りたエンジェルそのものでした。お迎え来ちゃった!?

私にはこう見えた。まさに宗教画のワンシーンでしたね。

貴重なエアリアルの使い手でもあり、飛ぶ鳥を落とす勢いで人気のある小宮山さんによる渾身のステージ。大先輩の真白さんの引退の花道を飾るという強い意思を感じられて感動しました。絶対に観てほしい!

識者によると、小宮山さんは浅草ロック座のためにエアリアルの新技(両脚先をティシューを掴んで開脚する技)を練習していたそうで、DX東寺での金銀銅杯などでもコツコツ挑戦を続けていたらしい。超高速の回転の間も満面の笑顔をして、軽やかに宙を舞う彼女ですが、どう考えても重力に逆らった動きだし人間業じゃありません。「成功・勝利」への徹底的なこだわりを持ち、日々研鑽を積む彼女に敬意を払い小宮山さんを「ストリップ界の大谷翔平」と呼びたいと思うのですがいかがでしょうか。

 

6景 空まこと

大トリ前の空気をつくる重要な景を任されたのはベテランの実力派・空さん。まずはブルーのクラシカルなデザインのワンピースで登場。ハーフアップで登場した空さんは虹色のリボンを右手に持ち、大きな弧を描きながら舞台中を駆け巡る。リボンが地面につかないギリギリの浮遊を保ちながら、軽やかにステップを刻む。新体操に憧れてリボンをクルクルしたことのある人なら分かると思いますが、あれめっちゃ難しいですよね。オリンピックの競技になってるくらいですから。

空中に描いた虹をつかみ、本舞台の袖から溢れるシャボン玉に包まれる演出は幻想的。生まれては消えゆく無数のシャボン玉は、少し切なくて、でも一瞬一瞬が美しい

イメージ。ルイ・イカールの「シャボン玉」という絵です

ブルーのベッド着に着替え、ゆったりと舞う。群舞はなく最初から最後まで1人で魅せる舞台はハイレベルで、安心してウットリ観ていられた。終始表情は明るく、立ち上がりで再び虹のリボンを手にしていたので、希望を感じさせるエンディングだった。

モチーフは、浅学ゆえ分からなかったです…。「虹」つながりで安直ですが、ジュディ・ガーランドの生涯を描いた「JUDY 虹の彼方へ」(2019年)がイメージに近いかもしれません。夢を追って、シャボン玉のように儚いステージを終えて、それでも人生は続いていくし感動は永遠に残るという希望を感じさせる物語です。名曲「Over the Rainbow / 虹の彼方に」のように、雲の上を夢見て、真白さんの門出が幸せなものであることを祈る空さんの願いを感じました。

www.youtube.com

虹の彼方の どこか 空高くには

特別な場所があると 小さな頃に 夢のはざまで 1度聞いたの

その虹の彼方では いつも空は 透き通り

そこで "あなた" が見る夢は 全て本当に叶うんだ

ある日 "わたし" は星に願う

その遠い場所にある 雲の上で 目覚めることを

 

 

7景 真白希実(引退)

とんでもない伝説の演目を目撃しました。

バーレスク」「CHICAGO」「ムーランルージュ」といった定番演目から、まっしーの名作演目「Black Diamond」「BigSpender」「Wow」「Feeling fine」等のショーガール作品を想起させるスペシャルメドレーで構成。ファン垂涎モノの「これぞ名人芸」「よっ、日本一!」「真白屋!」と掛け声をかけたくなるような舞台でした。

まず、舞台が開くと本舞台の移動盆にまっしーが佇んでいる。移動盆の側面にはキラキラホログラム装飾がなされており、アジアイチの巨大ミラーボールを囲むようにダイヤモンド型ラインLEDライトが特設されていた。

衣装もキラッキラ。黒いシルクハットのクラウン(側面)、ブリム(ツバ)、裏面に銀のビジューがふんだんにまぶされている。黒ベロア素材のレオタードにもビジューで柄が描かれ、手袋、ブーツ等あらゆる部分に光が宿っていた。首元には大ぶりのネックレスをつけて、ハーフアップにした髪はキラキラのバンスクリップで留めて、ミラーボールの反射を一身に浴びるまっしーは美の化身そのものであり、「ラスボス」感をたたえている。この明かりは真白さん一人で100万ドルの夜景の光量に相当します。ダンサーズ含めた7名のタキシード風衣装の踊り子たちがまっしーとともに群舞を披露した。

 

スピーディーな衣装替えも見もので、2着目は金色のフリンジがたっぷりついたミニワンピース。3着目は真っ赤なシースルーのベッド着で、すべての裾にモヘア素材のようなふわふわがつけられ、女王様のように、花魁のように裾を引きながら花道を進む。ダンサブルなナンバーからしっとり聴かせるバラードに変調し、情感たっぷりのベッドを魅せた。左膝をついて右脚を高らかに上げるボーズは前盆のせり上がりで最高潮を迎え、スーパーL等の難度の高いポーズをしっかりと決めた。涼しい表情でほほえみながら微動だにすることない彼女の身体は、美しすぎてバロックのアーティスト・ベルニーニの彫刻作品のよう。

「ベルニーニはローマのために生まれ、ローマはベルニーニのためにつくられた」と賞賛されたバロック芸術の巨匠。昔イタリアに観に行きましたが、エクスタシーの頂点で時が止まったかのような表現が見事で、生涯一度は観てほしいです

真白希実はストリップのために生まれ、ストリップは真白希実のためにつくられた」と言っても過言ではないでしょう。この演目は、間違いなく、日本イチの、そして世界の頂点に立つ踊り子のパフォーマンスでした。

グレイテスト・ショーマン、いや「グレイテスト・ショーガール」として、踊り子としての人生を生ききったまっしー。「さあ生きよう、前を向いて(Come alive)」という前向きなメッセージは、私たちスト客やファン、「真白AD(真白以後)」を生きる全国の踊り子たちを激励するようでした。

移動盆での立ち上がりから花道、本舞台でバッキバキのダンスを決めて「STEPS ON BROADWAY」でも使用した階段に登った。浅草ロック座が持つあらゆる演出装置をすべて使い切って、最上段に到達し、最後のポーズとともに銀幕が閉じられた。

生ける伝説――神話と言ってもいい。ストリップが好きで、あるいは美しいものが好きで、舞台芸術愛する人は、一人残らず「with final」に行くべきだ。年末で忙しいのは誰も一緒だが、万難を排して浅草ロック座に駆け込んでほしい。この伝説的舞台を目撃できるのは、あと数日しかないからだ。

 

フィナーレ

白い特大カベッサ(羽が付いた頭飾り)に白と薄ピンクのタキシード、白い長手袋の踊り子&ダンサーズが一同集結。あまりに見所が多く初見時の感想は「目が足りない!!」だった。もうお正月が来たのかというゴージャスな多幸感。

 

引退公演は明るいナンバーを聴いてもどうしてもしんみりしてしまうものだが、フィナーレが底抜けに華やかで、全員全力で楽しんでいるので、逆にこちらが元気づけられてしまった。どんな時も笑顔で締めたい。ストリップ最高!

 

スペシャル・ステージをもう一度考える

さてフィナーレまで書き上げましたが、ここでもう一度「with final」の構成を振り返ってみます。要素・キーワードだけを抽出し、陽のムードか陰のムードかを独断と偏見でラベリングします。

 

1景 ピンクのサーカス?(陽)

2景 カウボーイ&ガンマン(陽)

3景 飾り窓の女(陰だけどセクシー)

4景 パリのアメリカ人(陽)

SS 侍と刀(陰でミステリアス)

5景 天使に○ブソングを(陽)

6景 虹リボン&シャボン玉(陽)

7景 グレイテスト・ショーガール(陽)

 

SSがあることでコントラストがハッキリし、ほかすべて洋装演目なのに対して和装というギャップも作っています。ナンバーは悲劇的なオペラ・カルメンで、真剣をふるう決死の戦いのシーンが印象的でした。

色んな意見があると思いますが、「with」1stにも2ndにも存在しなかったこのSSは「終わりの象徴=真白さん引退のはなむけ」という役割があるのではないかと考えています。

刀、死、侍の美学というモチーフはあまりに三島由紀夫的で、エロス(生)の対極であるタナトス(死への欲動)すら感じさせます。闇があるから光が際立つように、「終わり(死)」があるからこそ「今」を大切にできるように、真白さん引退公演の深みを増すひと匙のスパイス、そんな効果を狙ったのではないでしょうか。

大好きな藤井風くんの「花」という曲をBGMに、真白さんのこれからの旅路が明るく照らされることを祈りたいと思います。

www.youtube.com

枯れていく

今この瞬間も

咲いている

 

最後に、この公演名「with」について述べて終えたいと思います。

ケンブリッジ辞書によると「with」の項目は「used to say that people or things are in a place together or are doing something together」と解説され、「人や物がひとつの場所に存在している事や、何かを一緒にやっていることを伝える時に使われる」と言うことができます。

つまり with は「人やモノ、空間でのつながり」そして「一緒に、ともに、つながって何かをしている共働性」がコアイメージです。 相手が「人」であれ「モノ」であれ「空間」であれ「行動」であれ「つながっている、共働している」ことがキーワードなのです。つながり、協働…まさに浅草ロック座のステージそのものじゃないでしょうか。「絆」と言い換えてもいいでしょう。踊り子、スタッフ・関係者、お客さん、誰が欠けてもステージは成立しません。「with」の4文字に、深い意味が込められているように感じます。

 

なんて、上記の考察も各演目も、たった1日観劇しただけの人間の妄想にすぎないので、「そういう風にとらえる人がいるんだw」と話半分に読んでくださいね。いち個人の感想文が、年末年始に行かれる劇場開場待ちの暇つぶしにでもなれば幸いです。そして色んな人の意見が聞きたい…。

 

最後に、浅草ロック座さんには毎回素晴らしいショーを提供していただき感謝しかないのですが、ひとつリクエストをするとすれば、各公演のイメージボード(制作初期に制作するアイデアスケッチ・設定)を一部でも公開してくれたら、考察がさらに捗るなと思っています。劇場内だけの限定展示でいいので…。オタクはイメージボードや設定集を読み解くのが大好きなのです。まっさらな状態で観劇→設定を読んで再訪するリピーターも増える気がしますし。というか売ってくれたら買います。

 

真白さん、お疲れ様でした!あと数日、楽日まで駆け抜けてください。あぁ、そういえばあの曲の読みは「らくじつ」でしたね。偉大な太陽が去った後のストリップ劇場にもまばゆい月や無数の星が瞬いているはずです。またどこかの舞台でお目にかかる日を楽しみにしています。

f:id:sakariba:20231227105949j:image