盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

特別な夏だけど旅に出よう④~ニュー道後ミュージックの怪談ストリップ編

特別な夏の旅もいよいよ終盤です。

広島港からクルーズフェリー「シーパセオ2」に乗って松山観光港へレッツゴー。この「シーパセオ2」、2020年8月1日に就航デビューしたての最新型フェリーです。予想外に船内のデザインが良く、とても快適に過ごせたので乗り物好きの方には是非試していただきたい。なお、これまで松山へ行く方法として「飛行機で松山空港」「別府観光港からフェリーで松山観光港」を試しましたが、広島第一劇場とニュー道後ミュージックをハシゴできるこのルートが断然レコメンドです。

setonaikaikisen.co.jp

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シーパセオ2の外観。当日港で乗船券を買いました。とても空いてます。

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売店の缶ビールを買ってデッキへGO。天気の良い日は最高のロケーションです。美しい瀬戸内海を観ながら酒が呑める贅沢。

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広島港から松山観光港へは4,000円、呉港からは3,000円。晴れた日にオススメです。

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松山観光港に着いて、高浜駅への短いバスに乗り、伊予鉄道高浜線松山駅へ。なんともレトロで味わいのある駅舎と車両です。

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昼前に広島を出て15時すぎに道後温泉着。ニュー道後ミュージックはすでに開場して場内換気をしていたので、1日券を購入してホテルにチェックインします。

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ニュー道後ミュージックのクラウドファンディング参加者一覧が壁に貼り出されています。まさか劇場の壁に名前を書いてもらえる日がくるとは。

道後温泉の宿泊、いつも迷いますが今回は「道後やや」にしました。この時は素泊まり1人5,000円で、道後温泉本館に歩いて行ける良立地。レンタル浴衣、水のペットボトルサービス、みかんジュース飲み放題という嬉しいサービスもあり。

www.yayahotel.jp

諸々準備を済ませ、ニュー道後ミュージックの怪談ストリップいざ初鑑賞!かすみ玲ちゃんを道後で観るのは3回目ですが、今回は満を持しての怪談ストリップ初挑戦。ファンとしては是が非でも目撃したかった。

【8月12日の香盤】(敬称略)

1.牧瀬茜

2.琴音みおん

3.かすみ玲

怪談ストリップは変則香盤で4回公演。1回目のスタート時間は16時27分(死にな)にするという徹底ぶり。開演時は、いつものクスリと笑える温泉場らしい場内アナウンスではなく、怪談ストリップ用のおどろおどろしいアナウンスが流れています。客入れ中も幻想的な音楽が流れていました。ひゅーどろどろ。

この日、かぶりつき席にて4回拝見。温泉ストリップらしく、2回目からは泊まる宿のレンタル浴衣を着て、湯上がりホカホカ&ほろ酔いにて鑑賞。

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「道後やや」はカラーバリエーション豊かなレンタル浴衣と下駄が選べます。玲ちゃんに「その浴衣”やや”でしょ」と即バレました。道後中のレンタル浴衣を把握していらっしゃるようです。

少し時間が経っていることもあり、玲ちゃんメインのレポで恐縮ですが、以下感想です。※所々伏せ字を入れたり表現をボカしていますが、もし問題があればご指摘ください。

 

1.牧瀬茜

怪談噺の名作「牡丹灯籠」を拝見。三遊亭圓朝の傑作落語が元ネタです。「牡丹灯籠」は「四谷怪談」「皿屋敷」と並ぶ日本の3大怪談話として有名で、幽霊との恋路を描いたロマンティックな悲恋モノです。ちなみに、本話の主人公の「お露(つゆ)」の名も広く知られており、「四谷怪談」の「お岩さん」、「皿屋敷」の「お菊さん」と並び、日本三大幽霊と呼ばれています。

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月岡芳年が描いた《ほたむとうろう(牡丹灯籠)》

さすが怪談ストリップの常連踊り子、「よっ!名人!待ってました!」と掛け声をかけたくなる王道演目&極めっぷり。極限まで身体を絞り上げた細身に艶やかな着物を纏い、曖昧な笑みを浮かべながら髪をなびかせて儚く踊る姿は美しき亡霊そのもの。灯籠でぼんやりと照らされた舞台が怪しげで、暗闇から何かがやってくるのではないかと想像力を膨らませます。こんな綺麗な幽霊に迫られて殺されるなら、男冥利に尽きるかもしれないと思わせるくらいのはまり役。途中にセリフも挟みながら舞台スペースすべてを使った、観客に語りかけるような没入感あるステージは、牧瀬さんの高い演劇スキルも感じさせる唯一無二の作品だと感じました。

緊迫したステージとは裏腹の、のどかで笑えるOPショーとのギャップもすごかった。嬉しい楽しいすっぽんぽん・・。なお、ポラは無く手拭い&募金タイムでした。今回の手拭いも可愛かった。観劇後、早速温泉で使いました♨

 

2.琴音みおん

改名されてからは初めましての踊り子さん。ニュー道後ミュージック所属になったそうです。「地〇少女」「鬼〇の刃」を拝見。吸い込まれそうな赤い瞳にロングの黒ウィッグが美し怖い。暗闇に無表情にいらっしゃるとリアル市松人形のよう。

道後温泉は年々若いお客さんも増えており、この日も初見の温泉客のグループ客がチラホラいらっしゃるので、こういう現代ネタの演目を観るとストリップのイメージが一新されて良いなと思う。特に牧瀬さんの王道ホラー作品後だと振り幅が大きく、「ストリップって自由・・!」と衝撃を受けるはず。ポラがチェキサイズでちょっと懐かしかった。

 

3.かすみ玲

さぁ来ました!トリのお出ましです!前情報ほぼゼロで迎えたので、「怪談でどんな演目するんだろう?和物かな~玲ちゃんの白い肌は白装束似合うだろうな~」とワクワク。

そして場内アナウンスで聞いてびっくり、演目は「白〇姫」と「ベルサ〇ユのばら」の2個出しでした。えぇ、観たことのない彼女が舞台にいました!良い意味で裏切られて、めちゃくちゃ楽しかったです。あの衝撃と感動は、劇場に行った人にしか分からないと思いますが、思い出しながら綴ってみます。

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「白〇姫」は、プリンセスではなく、彼女の継母である王妃を演じています。てっきりプリンセス役かと思ったので、またも良い意味でタイトルを裏切られました。この遊び心が彼女らしい。

登場シーンでは、紫色のセクシーなドレスや黒いマントを身にまとい、いかにもなヴィラネス(悪役)がなんともハマっている、というか楽しそう!悪い顔している!イメージ画像は、おのおの「白〇姫 王妃」でググって確認してみてください。

古めかしい魔法の鏡、重くて切れ味の良い短剣、年季の入った大きな宝箱という王妃を象徴するアイテムも雰囲気ばっちり。ダンスではイスを使いながら美脚を惜しみなく披露し、温泉客の目を奪います。黒いタイトスカートの深いスリットから覗く繊細な作りの網タイツにハイヒールがよく似合っていた。魔性の玲ちゃんです!

ベッドでは、盆のサイズにぴったり合うロウソクマット(白と黒の2枚重ね)を用意し、一体何が始まるんだと息を飲みます。素早く白〇姫の青と黄色のドレスをロウソクマットに敷き、短剣で狙いを定めます。

すると、宝箱から赤い「心臓」をさっと取り出し、白〇姫のドレスの上で短剣を突き刺す!「心臓」からは真っ赤な「血」が勢いよく噴き出し、可憐なドレスを鮮血で染める。ぐちゃぐちゃと盆上に飛び散る「心臓」と「血」がかなりグロテスクで、照明に照らされてよりリアルに見える。スト初見であろう温泉客のグループ客らが「ひっ・・!」とおびえた声を上げる。いい反応!

王妃の玲ちゃんは、憎い白〇姫の「心臓」や「血」を顔や身体に浴び、時折美味しそうに舌で舐め上げ、指で悪戯に玩ぶ。その姿は、数多の若い乙女を殺し、その血で身体を洗い美を保ったと言われる千鬼姫のようにも見える。クライマックスで、心臓を手に鮮やかなポーズを切る。血と悪に染まった壮絶な立ち上がり。

もうね、目の離せないくらい予測不可能なステージでした。映画1本観たような満足感を約15分間で味わいました。ちなみに、グリム童話の原作では、王妃は真っ赤に焼けた鉄の靴を履かされ、死ぬまで踊らされるというフィナーレを迎えます。元々とても怖い話なんですが、Di〇〇eyによってハッピーエンドなイメージになってますよね。

クライマックスの「心臓」シーンを観ながら私が何を感じていたかというと、「美味しそうな甘い匂い」です。いや、サイコパスとかではなくて、本当に美味しそうだったんです。短剣に貫かれた瞬間から場内いっぱいにブドウのような芳醇な香りが広がっていたんだもん。なので、暗転してポラが始まる前、「あの心臓の具材はなんだ」とかぶりつきから盆を観察していました。

明転後、再び登場した玲ちゃんに笑われながらネタバラシしていただきました。この演目は、他の劇場ではできないから仕舞うとのことですが、折角なので「心臓」の正体はミステリーのままにしておきます。僭越ながら一口食べさせていただきましたが、白〇姫の心臓は甘くて美味しかったです(笑)。日によって味や配合を変えていたとか。なお、ベタベタに汚れた白〇姫の衣装ですが、ステージ後に一緒にお風呂に入って洗っていたそうです。手間のかかる演目!このステージを観られただけでも道後に来た価値がありました。

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さて、続いて「ベ〇ばら」。言わずと知れた名作の人気キャラクターで男装の麗人を、玲ちゃんが見事に演じています。衣装も金髪ウィッグもよく似合う!玲ちゃんの金髪はめちゃくちゃ貴重だったのでテンションが上がりました。

衣装は、連隊長の赤い制服、白いパンツ、白いブーツ。つけまつげもバッチリで原作再現が半端ない目力です。口紅は赤い衣装に合わせてレッド感の強いピンク。アイメイクは白ラメ散らせて、チークもガッツリ入れてアニメ顔に変身。ウィッグは胸下まであるカール感強めの本格派。ご本人は「汗で張り付く!目に入る!」と扱いに苦労していましたが。小道具の剣は長尺で、長身の玲ちゃんがかざしてもチャちく見えない立派なもの。Amaz〇nで購入したそうです。何でも売ってるのね、Amaz〇n!

1曲目は「ベ〇ばら」のあの曲を使っていて、かなり耳に残ります。サビ部分の振り、未だに目に焼き付いています。大和で夢乃うさぎさんと聞いて構成したそうです。個人的には、「怪談ストリップで、ベ〇ばらやろう!」と思いついて実現できるのがスゴイ。

2曲目で鮮やかな殺陣を披露し、ストーリーは「ベ〇ばら」のクライマックスであるアン〇レとオス〇ルの死のシーンへ。泣ける名シーンを繰り広げた後、玲ちゃんは衣装をベッド着に変えて盆へ。そしてオナベ。

オナベ!???YES!ONABE!!

この瞬間ほど、かぶりつきに居て良かったと思うことはないかもしれない。玲ちゃんの白い指が巧みに動き、終焉を迎える愛の物語をドラマティックに演出します。濃厚なラブシーンと切ないラストに、興奮しながら思わず涙腺が潤みます。激しいオーガズムとともに別れが訪れ、暗転。

「白〇姫」に続き、「スゴイ演目を観た・・」としばし呆然。なお、この演目は、オナベ部分をポーズベッドに変えたら他の劇場でも出来るかも、と仰っていたので近いうちにまた観られる日が来るかもしれません。保証はないよ。個人的にはチームショーでオス◯ルとアン◯レの絡みを観たいんですが、絶対やらないと思います。

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今回の「白〇姫」で使われた小道具(ロウソクマット、短剣、宝箱など)は引退された踊り子さんから継承したものだそうです。玲ちゃんは、伝説の踊り子と呼ばれた女性のことを今でも尊敬していて、時折思い出を語ってくれます。

「こんな重い短剣振って踊っていたんだよね。本物の金属だから・・ほらココ錆びてるでしょ。小道具ひとつ取っても、人を斬れるような刃を選んでいたの。すごいよね」

ロウソクマットは所々穴が空いてしまっていて、補修を加えながら使っていました。新品の小道具を用意するのは簡単だけれども、遺されたモノを語り継ぎながら使い切ろうとする姿勢が、彼女の真っ直ぐな人となりを表していて好きです。仁義のひとだな、と思います。

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帰り際、怪談ストリップに今回の2演目を持ってきた理由を玲ちゃんに聞いてみました。

「死ぬのって、怖いでしょ」

なるほど、奥が深い。古今東西いつだって誰だって死を恐れています。デッドエンドの作品は、人生は限りあるものだと教えてくれる。

余談ですが、自称ホラー映画マニアなわたくしは、ホラー(怖い話)について、次のような考えを持っています。それは、「和ホラー」は幽霊の姿を直に見せずに想像力で観客を怖がらせ、「洋ホラー」はモンスターやゴーストなどの恐ろしい姿によって視覚的に観客を怖がらせるという文化的差異があるということです。「和ホラー」の代表的作品は「女優霊」「リング」呪怨」、「洋ホラー」は「エクソシスト」「エルム街の悪夢」「13日の金曜日」など。

要するに、その国・地域・時代で何を怖がっていたかという表象がホラー作品であり、自然災害、病気、不運、宗教、生と死など「人の手に負えないもの」を何とかして理由付けするために作られたものがホラーなのだと考えています。

・・話が逸れましたが、何を言いたいかというと、この日の怪談ストリップは「和ホラー/牧瀬茜さん、琴音みおんさん」と「洋ホラー/かすみ玲さん」としてバランスよく演目で表現されていて、とっても完成度が高い香盤だったなということです。頭でも眼でも怖がらせてくれ、ひとときの涼を得ました。やっぱり女性、もとい手に負えない美女たちが演じるホラーは怖い!怪談ストリップ、また行きたいです。こんな実験的で面白いイベントを定期開催してくれる劇場にも感謝。来年も玲ちゃんが乗ってくれることを心より願っています。

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無事に怪談ストリップを見届けたことだし、ささやかな打ち上げに繰り出し、酒で身を清めるとしますか。

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とは言え1回目の時点から呑んでましたが。休憩時間はビール&温泉。ストリップ⇔酒・食⇔温泉の無限ループは、温泉ストリップの最大の魅力です。

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道後らしく海鮮メインの夕飯。鯛めしや鯛のお造りをリーズナブルな価格でいただけます。これは日本酒案件でした。店内はほかに一組しかお客さんがおらず、厳しそう。

前回ニュー道後ミュージックに来たときに知り合った常連さんとも乾杯でき、いい夜が過ごせました。ベロベロに酔っ払いながら千鳥足でホテルに帰り爆睡。翌日、寝ぼけ眼で道後温泉本館に行き、最終日もしっかり温泉を楽しみました。

松山で、最後に行きたい箇所があったので空港に行く前に立ち寄り。日本一美味しい豚足を食べさせてくれる酒場で締めましょう。

tabelog.com

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いつ来ても異彩を放つ店。観光客はまず行かない店ですが、名店です。

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瓶ビールで乾杯。サントリーのビアグラスが可愛いね。

マスターに久しぶりの挨拶をすると「お、またニュー道後ミュージックを観に来たのかい」と行動パターンがバレバレです。コロナ禍下でも営業を止めることなく頑張っていました。次来る時も、こうやって笑い合いたい。

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焼き豚足は絶対試してほしい。丁度良く塩気の聞いた豚足にかぶりつき、ビールで流し込む。焼き豚耳も間違いなく美味しい。お行儀は忘れて獣になろう。

松山空港からは飛行機で帰ります。行き当たりばったりの旅がようやく終わりを迎えます。ナイーブなコロナ禍下でいつもより気は遣うけれど、間違いなく行って良かった。とは言え、行きたいところに行けずに苦しい思いをされている方がいるのも事実。私が行けたのはたまたま運が良かっただけなので、この後はまたしばらく静かに過ごします。

長らくのステイホームによって精神を削られて負けそうな瞬間もあったけれど、この夏の思い出があれば、残りの夏も頑張れそうな気がしました。旅の過程で出会ったすべての人たちに感謝申し上げます。お互い元気で、また近いうちに会いましょうね!皆さまがこの特別な夏を自分らしく過ごせるように祈りを込めて。