映画「しとやかな獣」を観る
「巧いッ!お見事!」その一言に尽きる。
映画「しとやかな獣」は、1962年12月26日に公開され、監督:川島雄三 脚本:新藤兼人という邦画ファン垂涎のコンビによる。
ストーリーは、とある団地を舞台にしたブラック・コメディで、出演陣がマシンガンのように繰り出す台詞の掛け合いが秀逸。若尾文子やら、船越英二(船越英一郎のパパン)やら、伊藤雄之助、高松英郎、山岡久乃、小沢昭一、ミヤコ蝶々らの虚実織り混ざったスリリングな化かし合いから目を離せない。
特に女性陣の悪女っぷりが光っており、美貌と肉体で馬鹿な男たちを翻弄する若尾文子、派手なファッションに身を包み男から男へ軽やかに渡り歩く浜田ゆう子、貞淑そうに見せて実は一番の策士でワルな山岡久乃、全員が「しとやかな獣」と呼ばれるにふさわしい。大して男性陣はどこかヌけた小悪党で、「やっぱり女には敵わねェや」と苦笑いしてそうな滑稽さが人間くさくて憎めない。劇中、男と女の掛け合いがほとんどで、女と女が直接やり合わないところも女たちの秘めたる狡猾さを表現している気がする。
宗川信夫による縦横無尽なカメラ・ワークもお見事で、3DKと思われる狭い団地室内の出来事を、あっちからこっちから追いかける。時には天袋のあたりから、地袋の方から、はたまたベランダから、廊下から、のぞき見しているようなカメラ・アングルが面白い。
ワーっと台詞の掛け合いが続いたと思えば静寂が訪れたり、テレビから流れるゴーゴーで激しく踊ったり、能楽囃子が鳴り響いたり、池野成による音楽演出も面白い。60年代の映画って、大衆娯楽ではあるものの実験的な要素がどこかに入っていて、それがぜんぜん古びてなくって、今観ても新しいなぁと思える。むしろ、映像技術に頼り切りの現代映画では到達できない表現になっていて、先人たちスゲェって感服する。ウーン川島雄三監督はやっぱり面白い。