盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

昔、土浦のおっパブに行った話

ストリップ劇場の知人が、初めておっパブに行ったらしい。

kazkumaputti.hatenablog.com

知人といってもTwitterで相互フォローをして、たまに劇場で合えば挨拶するような仲だ。互いに劇場ネームしか知らないし、普段はほとんど絡みはないし、年齢・職業・住まい・素性はまったく知らないけれど、それでも推しの踊り子や好みの女性はお互い把握しているし、今週はどこの劇場に出没していそうかも大体想像がつく。ストリップ劇場の知り合いたちは、裸の女性を囲んで手拍子や拍手をして、ポラタイムや休憩時に「いいですねぇ…」「尊い…」と呟き合う、そんな仲。

 

ストリップを観に行くのが趣味な男性でも直の触れ合いができる風俗に行きたがるんだ、という素直な発見もありつつ、おっパブ体験中の心の機微・動揺・悟りの描写が面白く、楽しくブログを拝読した。

と同時に、昔おっパブに行ったことを思い出した。

Once upon a "oppabu" time...

およそ10年前、二十歳になりたての大学生の時分だった。その頃、私はアルバイトで大学至近のバーでバイトをしており、そのバーの常連さんたちと週4で飲み、大学関係の友人や先輩と週1で飲み、サークルの人たちと週3で飲むような生活を送っていた。要するに年がら年中飲み歩く模範的な大学生だった。

 

いつものようにバーに出勤して、常連さんたちと他愛もない話をしていたら、たまたま飲みに来ていたバーの後輩が「先輩、相談があるんスが」と切り出した。

その後輩は1つ下の男の子で、数ヶ月前からそのバーでアルバイトを始めていた。彼は、どこに出しても恥ずかしくないピカピカのチェリーボーイだった。

「自分、同級生に好きな子ができたんで告白しようと思ってるんスが、おれ男子校だったから女性とうまく話せないンす。2人きりになったら頭真っ白になっちまいます。どうやったら女性慣れするンでしょうか」と、話してくれた。どこ出身か忘れたけれど、訛りが抜けてない割にチャラい話し方が印象的だった。

彼はアルバイトの後輩としては勤務態度の悪くない、幼い笑顔がキュートな男の子だったが、確かに女慣れはしていなかった。彼女はできたことないらしい。好みのAVは老人介護モノと言っていたので、若さの割に珍しい性癖してるなと思っていた。

そんな可愛い後輩の悩みは聞かねばなるまい。今夜の肴は彼に決定だ。常連さんたちとナナメウエのアドバイスを繰り出した。

「初デートは筑波実験植物園のキノコ展でどう?『この後はぼくの自宅で別のキノコ観察をしよう』と誘うんだよ」「夕食の後、二次会でこのバーに連れてきてよ。ロングアイランドアイスティー(※度数がバカ高いカクテル)奢ってやるよ」「勝負パンツは買ったか?一緒にイーアスつくばに探しにいってやるよ」

人生経験豊富な常連たちが真摯に対応していたが、どれも「女性慣れ」を導くソリューションとは言いがたかった。悪ノリのネタが尽きてきた頃、誰かが「そういえば土浦にできたおっパブが良かったらしい」という情報をくれた。

それだ!!!

全員、後輩の悩み相談は忘れて、おっパブの話に夢中になった。「おっパブって行ったことある?」「どんなことできるの?」「未成年でも行ける?」スマートフォンがまだ普及していない時代だったのでガラケーググる奴なんかおらず、近所に住む風俗物知り博士をその場で呼び出して質問攻めにした。

その結果、いくつかのことが分かった。

 

・おっパブとは「おっぱいパブ」の略称で、女性の乳房を直で触ることができるキャバクラのこと

・土浦の桜町(茨城最大の風俗街でNSの聖地)に人気店があり、若いキャストが多い

・男性5,000円(うろ覚え)で時間内飲み放題、女性は無料

 

後輩が女性と話す練習ができるし、初対面の人の胸を触れたら同級生に告白もできるだろうという雑な推論が導き出され、早速次の金曜夜に行こうということになった。その場にいた4人の常連に車持ちがいたため車で行くことにした。じゃんけんで負けた人が運転手役で。

後輩のチェリーボーイ、アフリカあたりからの留学生、自称・100人斬りした社会人、豪農の一人息子のフリーター、私という役者が揃った。男4人女1人の頼もしいパーティーだ。

 

当日、みんなどことなくソワソワしながらバー前で集合して車に乗り込んだ。土浦までは車で20分くらい。ちょっと緊張していたしシラフで会うのは珍しいので行きの車内は静かだった。それでも「俺たちはこれからおっぱいを揉むためにわざわざ隣町に行くんだぞ」という思いが全員の心をひとつにしていた。後輩は入学式で着たスーツを身に着けていた。故郷(くに)のお母さん、息子さんは今から男になります。

 

桜町に着いた。夜の桜町に行くのは初めて。思ったよりも静かで暗かった。もっとネオンでギラギラしてスケベオヤジたちが跋扈しているイメージだった。新宿&渋谷育ちのシティガールなので、郊外の歓楽街に足を運ぶ機会がこれまでなかったのだ。閑散として見えるのは表面上だけで、実態は都心よりも闇が濃くて深いことを知るのはもっと後の話。

 

車を停め、例のおっパブに入店しようとしたら満席だった。フライデーナイトにフィーバーしたくなるのはどこの街の住人でも同じようだ。どうしようかと思っていたら、提携のガールズバーで500円で飲ませてくれるというので、そこで時間を潰すことにした。席が用意できたら呼んでくれるらしい。

ガールズバーには、同じような境遇の男たちがたくさんいた。立派なスーツに身を包んだサラリーマンが多かったが「この人たちも全員おっぱい揉み待ちか…」と思うと微笑ましかった。

ガールズバーは女性バーテンダーのいるショットバーで、カウンター越しに接客をする形態の飲食店。そこはピタピタのワイシャツにミニスカートの女性が多かった。作ってもらった薄いジントニックをちびちび飲みながら20分ほど過ごした。後輩は楽しそうに女性バーテンダーさんと喋っていた。お前、普通に話せてるじゃん。単に「好きなコ」の前で平常でいられなくなる恋煩いじゃん。なら何人ほかの女性で練習しようが治らないよと気づいたが黙っておくことにした。そういえば、ガールズバーに行ったのもあれが最初で(今のところ)最後だった。

 

「お席ができたようです」と店員さんに声をかけられ、いよいよ決戦の時が来た。残念ながら店名は覚えていないし、おそらくもう閉店している。入口は狭く質素で、店内のつくりは中規模のキャバクラ程度だった。赤い囲みソファがいくつかあり、その奥に通された。上述した知人のブログの記述の通り、たぶん今の一般的なおっパブ(セクキャバ)は「二人掛けのソファが特急列車のように同じ方向を向いていて、座れば頭が隠れるていどの仕切りが付いている」つくりだと思う。都内近郊のおっパブ経験者の何人かの遊び人に聞いたところ、全員そう言っていた。とにかく店内は暗く、音楽が大音量でかかっているそうだ。私が行った店はソフト路線なんだろう、キャバクラ並みの光量で他のお客さんの顔もよく見えた。

まずはドリンクをオーダーした。飲み放題らしい。運転手以外は全員ビールをチェイサーに、ウイスキーの水割りを頼んだ。テーブルに置かれたウイスキーは角瓶だったがキャップは開いていた。

テーブルに4人の女性キャストたちが着いた。客1人につき1人の女性が着くのだが、女性客はカウントしないシステムらしい。道理で無料なはずだ。キャストたちは自己紹介して、「どういう集まりですかぁ~?↑」と尋ねてきた。飲み屋の友達で、評判良かったから来たんだ、と誰かが答えた。「おねいさんはどうして来たの~?↑」と聞かれたので「おっぱいが揉みたくて」という本音を話した。なんか照れるな。

「うちの店は、基本的にはお酒を飲んでお喋りして、ショータイムになったら触れますぅ。その時、良かったらチップもくださいねぇ~」

そういえば入店時に料金を支払った際、チップらしきおもちゃの紙幣を何枚か渡されていた。これを渡すらしい。ショータイムがいつ来るのか分からないが、それまでは飲みながら会話をした。キャストの年齢層はバラバラだったが、愛嬌のある人ばかりだった気がする。普通に楽しかった。

しばらくして、店内が少し暗くなりスポット照明がつき、ダンサブルな音楽が流れてきた。ショータイムが始まるのだろう。それまでにこやかに会話していた女性たちが急に脱ぎだし、上半身を露わにした。女性たちは男性客にそれぞれまたがり、客の手を胸に当てて触るよう促す。さっきまで和やかに隣で話していたのに、今は馬乗りになって胸を揉まれている女性たち。そして知り合いの男たちはニヤニヤしながら揉みしだいている。みんなの急な変貌ぶりにドキドキした。店内の空気のにおいは湿度を帯び、濃いピンク色に変わっていた。非日常の光景を、水割りを飲みながらぼうっと眺めていた。自称・角のウイスキーは酔いが回るのが早い。

すぐに私の上にも女性がまたがった。女性の胸部は銭湯や修学旅行などで見慣れていても、こんな至近距離でじっくり見るのは初めてだし、ましてや触るなんて。「失礼します!」30代半ばくらいだろうか、濃い化粧で明るい茶髪ショートヘアの女性のキャストの胸は柔らかく、ブラジャーを外したら少し垂れていた。少し汗ばんで、ひんやり冷たかった。エアコンが効いていたので「寒くないですか?」ととんちんかんなコメントをしてしまった。女性は笑いながら「大丈夫よ、ありがとう。たくさん触ってねー」と、胸をつかむ私の両手をぎゅっと押し付けた。これは、バブりたくなる。オギャりたくなる。

少ししてその女性は隣に移動した。変わりに別の女性が来たが、最初の女性以上のときめきはなかった。店内が明るくなり、ショータイムが終わることが分かった。何か忘れてる…あ、チップ!同行していた男どもはいつの間にかチップを渡し切っていたらしい。どうせなら最初の女性に渡したい、と服を直して違うテーブルに向かう彼女を呼び止めた。彼女はとびきりの笑顔で「ありがとう!」と言って胸をはだけた。谷間に突っ込めということらしい。遠慮なくねじ込んだ。その後、ストリップにはまり何人もの踊り子に色んな方法でチップを渡すことになったけれど、胸に入れたのはあれが最初だった。何事にも言えるけど「はじめての人」の記憶って強いよね。

 

帰りの車内は、行きとは打って変わって盛り上がった。店内にいたのは40分程度で、ショータイムは2回あったけれど、お互いの動向を見る余裕もなくあっという間だった。謎酒がまわっていたともいう。それぞれが、それぞれのおっぱい談に華を咲かせる。いつの間にみんな何かしらのドラマを経験したようだ。

ひとしきりシェアして笑い尽くした後、破顔した後輩がしみじみ呟いた。

「先輩、楽園ってあったんスねぇ・・・土浦にあったんスね」

5000円で行ける楽園か。あまりにチープで即物的だけど、君にそう言ってもらえたら土浦まで行った甲斐あったよね。茨城県道55号土浦つくば線から見える星空がきれいだった。

f:id:sakariba:20211117010749j:imageつくばは高い建物が少ないので空が広いのだ

 

翌週、彼が思い人に告白して付き合えることになったとバーで報告してくれた。その日も常連たちとどんちゃん騒ぎで祝福した。その子を店に連れて来いよと誰かが言うと、「頼むから、おれがおっパブに行ったことは黙っていてくださいね!」と口止めをされた。

その後、彼とその彼女が幸せに暮らしたかは分からないけれど、卒業までは付き合ったんじゃないかな。めでたしめでたしで終わればいい。以来、おっパブには行っていないかもしれないし、ハマってしまったかもしれない。楽園は意外と日常近くに潜んでいて、いつでもウェルカムなのだ。禁断の果実、おかわりください!