盛り場放浪記

花街を歩くことが楽しみな会社員による、酒とアートをめぐる冒険奇譚。

府中市美術館「へそまがり日本美術」展を観る

春と言えば府中市美術館の「春の江戸絵画まつり」。府中市美術館、住処である御徒町からは若干遠いけれど公立美術館ではかなり好きな美術館なので、できるだけ通うようにしている。特に「春の江戸絵画まつり」は、江戸絵画専門の金子学芸員の企画が光るので毎年見逃せない。

f:id:sakariba:20190402174205j:plain

府中駅からバスで。ポップなオレンジ色の看板がかわいい。

今年は会期前から随分と話題となり、待ちわびていた「へそまがり日本美術展」、通称「へそ展」。ホームページも遊び心あふれていてとっても素敵。

fam-exhibition.com

f:id:sakariba:20190402174223j:plain

展示室入口は「例の絵」押し。展示室内の写真NGだったけれど、とても見やすく美しい展示だった。

展示では、完璧ではない、不恰好なものや不完全なものに心惹かれることを「へそまがりな感性」と定義づけ、江戸絵画を中心とした日本美術史を俯瞰する。ユーモア溢れる仙厓の禅画から、現代のヘタウママンガまで、「おかしい」「へんてこ」「かわいい」など、「美しいこと」「巧いこと」「整っていること」が良いとされる従来の美術史とはかけ離れる、インパクトのある珍品が揃う。

これがまた、めちゃめちゃ面白かった。あんなに笑いがあふれ、ほっこりした雰囲気が漂う展示も珍しい。老若男女、子どもからお年寄りまで、美術に明るくない人も玄人も、クスクス笑いながら作品を愛でていた(嘲笑ではなく、思わず噴き出してしまうような笑いね!)。

目玉展示の徳川将軍の作品もやばかった。著名な徳川家光 《兎図》を初めて拝むことができ、何ともいえないユルさとカスカス感に脱力した。

f:id:sakariba:20190402172639j:plain

徳川家光 《兎図》。ポソポソの毛とカスカスの筆跡が頼りない。ぱっと見、切り株が胴体のように見えてしまい、兎というより謎の生き物Xとしか認識できない。

上様は描いた絵を仕えていた家臣に与えたというから大変だ。私なら一目見て噴き出す。みんな「???」と思いながら「ありがたき幸せ!」とか言っていたのかな、それとも「さすが上様、こんな絵は見たことがありません。天才でございます!」とか。

f:id:sakariba:20190402173057j:plain

徳川家光鳳凰図》。キャプションを観ないと鳳凰とは思えない。尾がなければその辺の野の鳥だ。ネットでは「ピヨピヨ鳳凰」と呼ばれる。

f:id:sakariba:20190402173312j:plain

長沢蘆雪《菊花子犬図》。 ユルカワ!円山応挙の子犬図が比較用に展示されていて違いがわかりやすい。

どこからどうやって集めたんだという選りすぐりの「へそまがり」は、質・量ともにすばらしくて、金子学芸員の力量を改めて感じる。学芸員の本領発揮というか、企画力の神髄を見た想いだ。

自分の専門領域を極め、知見を積み重ね、ネットワークを広げ続けてはじめて、美術史に一石を投じつつ話題や入館者を呼ぶ企画展ができるのだなぁ。しかも自館のコレクションをふんだんに活用しているのだから言うことはない。展示方法もわかりやすくて、丁寧に丁寧に準備されたんだということが伝わる。本当にいい企画展。同時開催のコレクション展も楽しく、豊かでした。

なお、展示前期(3/16-4/14)と後期(4/16-5/12)で展示作品は大幅に入れ替わるので、両方行くのがベストです。徳川家光の作品3点すべて揃うのは前期だけなので、お早めに!

f:id:sakariba:20190402174218j:plain

兎トートは入荷待ちだったので予約購入。図録ももちろんゲット。マストバイ。

f:id:sakariba:20190402174228j:plain

館内のアットホームな空気が好き。ガラスから光が差し込み、明るくにぎわいがある。

f:id:sakariba:20190402174200j:plain

美術館付近は桜が満開。お花見と併せて美術館に行ってはどうでしょうか。