まだ液体のままの存在たち
猫は液体。
ぶるぶるっと身震いした時に耳が「ぴちぴちっ」と鳴る。同じ部屋にいるはずなのに、たまに音もなく消えて何時間も姿を現さない。
体の幅よりも狭い通路を通る。リラックスしてる状況で抱き上げたら想像の1.5倍以上伸びる。見た目より重くて、寝ている時に腹に乗られたら悪夢を見る。
夏は開き、ふと見ると床でとろけている。冬は布団の中で脚と胴体がしっちゃかめっちゃかな位置にある。「量子もつれ」も顔負けなくらい常にもつれている。
毛並みが良すぎてぬめぬめしている。人肌より少し温かい程度で、顔をうずめると眠ってしまう。丸まっているお腹に手を入れたら、適温のお湯に手を入れている感覚。
表情豊かで雄弁なので、気に入らないことがあるとストライキを起こす。昼寝中唐突に愛を伝えてくれる。一生のうちに一度だけ人語を話す。
安心している時は毛布や柔らかいものを揉む。母猫にお乳をもらう記憶を思い出しているそうだ。目をつぶってもみもみしている様は可愛いんだけど私のお腹やお尻に爪を立てるのはやめてほしい。
人間の記憶を消すことができるので、毎日見るたびに「なぜうちにこんな可愛い生き物が?」と本気で驚く。数日おきに「猫 可愛い なぜ」と検索をする。実は私は犬派なんだけど。
あお向けでお腹を出して、いかにも「触ってください」のポーズなのに触ろうとすると猫パンチされる。人間の言葉をかなり理解しているそうだが、何度言っても言うことを聞かないのは「無視」しているからだ。
おそらく神は人間よりも気合を入れてこのけだものを作りたもうた。
新聞を読み始めると邪魔をする。お前さっきまですやすや寝ていたじゃないか。
人間よりも高い位置に陣取り、人間を見下ろす。人間は猫を養うために存在する。
キリンジの新アルバム「crepuscular」が、非常に非常に良い。テレワーク中エンドレスリピートで流している。何ならこの記事を書いている今も。
堀込高樹がコロナ禍で抱いた感情や印象が色濃く反映されているので、キリンジにしては珍しく歌詞が具体的で、妙にリアリティがある。Amazon MusicやSpotifyでも聴けるので是非。メロウでちょっぴりビター。
このアルバムの中に「気化猫」という曲がある。猫飼いにはたまらない名曲だ。
「君の家の猫も 液体だと知っているだろう」
「信じるかい 信じないの?からだじゅうが毛に覆われたLiquid Cat 蒸発してしまうかも、なんて」
この曲を聴きながら猫たちを見ると、こいつらは今は固体のふりをしているが目を離すと液体になり、いつしか気体となって部屋の中を漂うのだろうと思う。
天国とか浄土とかあの世は信じない。死後、猫たちは虹の橋を渡って猫の楽園に行くというインターネット・ミームは素敵だけど、私は自分勝手なので死後もそばにいてほしいと願う。・・・グレーの猫・モリアーティの方は、そのうち尻尾が分かれて人語を喋りはじめ、「猫又」として跳梁跋扈するかもしれない。そうなってほしい。黒猫・ルパンの方は気体になったことに気づかずに寝ていそうだ。
我が家の猫たちは代々ヴィランの名を与えるルールなので、「次の猫はなんて名付けるの?」とたまに聞かれる。2匹の世話で手一杯なので当分増やさないが、万が一、増えるとしたら・・・。「ハンニバル」にしたいところだが、ますます手に負えない猫に育ちそう。ちなみに黒猫ならば「ルパン2世」にする。
ちなみに犬には、伝説の主人公の名を与えている。前飼っていたヨークシャーテリアは「アーサー王」。ペットクリニックに行くたびに笑われていた。犬は固体。
茹で上げたパスタがいずれ食べ時を失うように、どんな恋愛もいつかは冷める。しかし猫は永遠。永遠に理解できない。理解できないから惹かれる。納得のいく答えが出ないのをわかっていて、今日もまた「猫 可愛すぎる なぜ」とGoogleに尋ねる。
猫には秘密が多く、人間に心を許し切らない孤独主義者だ。ほらまた液体化している。